きもの博物館34
  染帯

 帯には幾つかの種類が有り、それらは産地や組織、形状、素材の違いにより様々な名称で呼ばれているのは既に『九寸名古屋帯』の中で述べた。今回は帯の中でもポピュラーな染帯を取り上げてみたい。
 染帯と言うのは、その名の通り「染めた帯」である。「染める」とは只単に色を付けると言う意味ではなく、呉服用語では「後染」を意味する。後染とは、織られた生地に後から染める事である。これに対して糸の段階で色を染め織られた物は「先染」と呼ばれる。帯の中でも西陣で織られる唐織や綴(つづれ)、博多の献上などは織物(先染)である。
 後染と言うからには、染帯の材料として白生地が使われる。染帯の生地としてよく使われるのは縮緬や紬、塩瀬である。縮緬は着物と同じ一越縮緬や鬼縮緬、紋衣装縮緬が使われる。塩瀬とは塩瀬羽二重とも言い、厚地の羽二重生地である。
 さて、染帯はほとんどが九寸名古屋帯である。そういう言い方をすれば、 「染帯イコール名古屋帯?」 「名古屋帯イコール染帯?」 と、混乱する人も多いのではなかろうか。
 帯の幅は通常八寸(鯨尺)である。九寸名古屋帯は文字通り幅が九寸ある。裏に芯を張り、両側を五分づつ折って仕立てるので仕立て上がりは八寸となる。九寸名古屋帯は織帯でも染帯でも同じ仕立て方をするが、一般に織帯は生地がしっかりとしているのでやや薄手の芯が用いられる。これに対して染帯は塩瀬や縮緬地を使うので厚地の帯芯を使うことが多い。
 染帯に限らず、きものと帯の組み合わせはよく質問される。染帯はどのようなきものに締められるのだろうか。    デュークエイセスが唄ってヒットした『女一人』という歌の歌詞に、 「結城に塩瀬の素描の帯が〜」 という文句が有る。『結城』とは結城紬、『塩瀬の素描の帯』とは塩瀬の染帯の事である。この歌詞の通り、染帯は一般におしゃれ帯(カジュアル)である。結城紬は高級紬だけれども、あくまでも普段着である。九寸の染帯は紬から小紋程度の普段着に用いられるのが普通である。
 同じ染帯でも、その素材によって格が変わる。塩瀬や一越、紋意匠などは格が高く、シボの高い鬼縮緬は格が低い。紬の染帯は全くの普段着用である。しかし、格の高い塩瀬の帯で柄の重い物は色無地や軽い付下にも締められる。
「どの程度の重い柄の物が?。」
と言われても、返答に苦慮するのだけれども、作家物(とは限らないが)などの立派な染帯は一部フォーマルにも用いられる。中には染の袋帯を創っている作家もいる。余り見かけないけれども、訪問着にも閉めても差し支えないものである。  きもののコーディネイトの難しさはこの辺りにある。
「染帯はどんな着物に締められますか。」
と、聞かれて、

「小紋や紬、時には色無地にも締められます。」
という答えでは十分ではない。全ての染帯が小紋や紬、色無地に締められる訳ではないのだから。
「塩瀬は小紋や色無地に、縮緬や紬は紬の着物に。」
という説明を付加しても十分ではないし、むしろ誤解を招きかねない。
「塩瀬の帯も紬の着物に締めても構わないし、かと言って余りに重い塩瀬の染帯を紬の着物に締めるのも不釣合いである。」
 さらに一口に染帯と言っても手描きの染帯、加賀友禅や京友禅などの糸目友禅、濡描き、型物では型友禅、紅型、木版を用いたものなど、染型によって染帯の用途も自ずから変わってくる。
 素材と柄の重み、染方などを総合判断して自分のセンスでコーディネイトしなければならない。それは着物の難しさでもあり、着物を着る楽しみでもある。
 染帯と着物の組み合わせのアウトラインはおおよそ別図の通りである。参考にしていただければ幸いである。
 さて、染帯には織帯にはない良さが有る。機で織られる織帯は意匠作家が図案を創り、熟練工が心を込めて織上げるけれども、使える色糸の数は限られている。手織りの唐織や綴は理論的には色糸を何色でも使えるけれども実際には制限される。そしてそれらを複雑に組み合わせて折り込み、ぼかしや繊細な柄付をするにはそれこそ熟練が必要である。染は織と違って染色作家が思う通りの色柄に染めることができる。言わば、織はデジタル的な要素を持ち、染はアナログ的である。織には織の良さがあるが、染には織では真似のできない良さがある。
 最近は着物を着る機会が少ないせいか、式服に偏重して染帯が余り締められなくなったような気がする。染帯の良さをもう一度知ってもらいたいと思う。