141.本手書き友禅とは?  
 はじめまして、最近、きもの春秋を発見し、お昼休みにお伺いしている者です。
  早速ですが、恥ずかしながら「【高級加賀友禅】本加賀友禅ではありませんが、本手書き友禅です。」という新品未仕立ての訪問着を53,000円でネット・オークションで購入した者です。
  商品を実際にてにしてみると、私には手書きとは感じられないので、オークションの呉服屋さんに問い合わせると手書きに間違いありません。というのです。もちろんこの値段で手書きが手に入ればと思い入札したのですが、手書きにも色々あるようですね。その辺のことを教えてください。
  糸目糊置きは、葉元から葉先まで同じ線の太さでプツンと終わっていますし、どこも同じような線の太さなので、機械でハンコを押したようにか感じるのです。だからかどうかわかりませんが、絵に柔らか味も暖かさもないのです。色付けも、はみ出しているところが一つもなくなんだかプリントのようなのですが?「本手書き友禅」とは一般的には(業界では)どのような意味で使われるのか、教えてください。 宜しくお願い致します。

 現物を見ないでいいかげんなことは申し上げられませんので、一般的な事としてお答え申し上げます。
「本加賀友禅ではない手書きの高級加賀友禅」というのは私の知っている範疇にはありません。加賀友禅は加賀染振興協会が認定した作家が加賀友禅技術保存会に登録して創作しているものです。
  私の知りうる範囲では、同保存会に属する作家の作品のみが「加賀友禅」と呼ばれていると思います。それ以外の「手書きの加賀友禅」というのは聞いたことがありません。しかし、きものの名称というのは定義されたものではありませんので、商品名、商標登録などで、きわどい名称をつけている場合もあるかもしれません。
「手書き」というのもはっきりとした定義があるわけではありませんが、ゆみこさんが思っていらっしゃるのは、また一般の人が思っているのは、「型を使わずに人の手で描いた友禅」と言うことだと思います。私も、それが、それのみが「手書き友禅」の名に値すると思っています。
  さて、その手書き友禅はどのようなものかについて申し上げます。
  手書き友禅は白生地に青花の汁で下絵を「手で」書き、それに沿って「手で」糊で糸目を引き、「手で」色を挿してゆくものです。手書きの対極にあるものは型染です。型染と言っても広い意味では、熟練職人の技を要するものから捺染、プリントまでありますので、一概に型物が安価だとか安っぽいものだとは言えませんが、手書きとは趣が異にするのは間違いありません。
  ゆみこさんの疑問は、目の前にある糸目の訪問着が本当に手書きかどうかということでしょう。
「型友禅」と呼ばれるものは糸目がありませんので、いわゆる型物ではないと思いますが、「手書き」と見紛うものでは現在「型糸目」という技術があります。従来、手で引いていた糸目を型で載せるのです。いつ頃からあるのか分かりませんが二十年以上前からあるようです。
  昔は糸目が太く、技術的には稚拙だったのですが、最近は技術が向上したのか細い糸目を載せることができるようになりました。型で載せた糸目の間に染料を手で挿してゆきます。この型糸目で染められた友禅を「手書き」と呼べるかどうかは疑問です。私は「型糸目の手挿しの友禅です」と説明するようにしています。
  この型糸目の見分け方ですが、比較的簡単です。
  第一に、糸目が綺麗です。人の手で引いた糸目はいくらか太い細いがあります。上手な職人は綺麗に引くのですが、それでも型糸目とは違います。この辺が手書きの味なのですが、見る人が見ればすぐに分かります。
  第二に、糸目が閉じないように引いてある場合が多いようです。ただし、紗張りのような技術もありますのでこれに限らないようですが。
  第三に、一枚の訪問着に同じ型を何度か使いますので、一枚の訪問着に全く同じ柄が描いてあります。よく使われるのは右袖の前と左袖の後ろの柄です。同じ型を使いますので全く同じ糸目の柄になります。別な色を挿している場合もありますので、気が付かない場合もありますが、よく見ると同じ糸目だと分かります。
  手で糸目を引く場合は全く同じ(寸分くるわない)柄は引けませんし、同じ柄を描く必要もありません。
「・・同じ線の太さでプツンと・・どこも同じような線の太さ・・」というのは型糸目のようにも思えるのですが、現物を見なくてはわかりません。 型糸目というのは手書きに比べれば確かに、ゆみこさんのおっしゃる「絵の柔らか味も暖かさ」に欠けますが、決して偽物や紛い物の類と摂らないでください。
  私は型糸目は糸目友禅を安価に染める優れた技術だと思っています。色は職人の手で挿しますのでプリントとは違いますし、価格の割りに良い商品も出回っています。
  ただ、型糸目の友禅を手書きと称して高値で売ったり、あらぬ付加価値をつけたりする業者がいることが業界の問題だと思っています。 「手書き」の訪問着が正規ルートで流れたならば、いくら良心的な価格で通しても53000円というのはありえないと思います。しかし、ネットオークションなどでは、いわゆるバッタ商品を扱っている例を聞きますので、通常考えられない価格で流通しているとも聞きますので、一概に安いから手書きではないとは決め付けられないでしょう。
  私が心配するのは、ネットオークションで扱われる商品が本物の手書きであれ、偽物であれ、消費者が「手書きの訪問着の価格はそんなものだ」と思ってしまうことです。 現物を見ていないので上記のようなことしか申し上げられません。
  仕立て先が決まっていないようでしたら当社で承っても構いません。現物を見ればもっとはっきりとコメントできますので。価格は、トップページ「きものドック」に掲載しております。必要でしたらご連絡ください。 また何かわからないことがあればご質問ください。

 早速、ご返信いただきましてありがとうございました。外出していましたので返信が遅くなり申し訳ありませんでした。とてもわかり易い説明で、頭の中が、スッキリいたしました。同じ柄で地色違いが三色あるということでしたので「型糸目の手挿しの友禅」かと思います。
  商品説明と現物に違和感を覚えたことと、発色が大変ぼやけていて写真のイメージとは異なったので返品することに致しました。ゆうきくんちの購買部は誤解のない、消費者サイドの表現をされていたのでさすがと思いました。これが、信用の証ですよね。
  今回は、大変良い勉強をさせていただきました。ゆうきくんのHPでこれからも勉強させていただきます。着物大好きですから!それにしても、あのネットショップのような表現は、ゆうきくんちのような呉服屋さんにとってというか呉服業界全体・消費者にとって困ったことなんではないでしょうか。
  本物を知らない消費者は、あれが本物と思ってしまわないでしょうか。(もちろん型染めも本物ですが。)なにしろ、人間国宝作の新品帯が15万円位で結構頻繁に落札されているのですから。業界内で表現の統一をして欲しいと願っています。着物を難しいものにしない為にも…。
 数万円で「手書き」と称するものから、数百万円の訪問着まで、余りにも開きのあるきものの値段に困惑されている方も多いと思います。「きものの価格は何といいかげんな。」と思っておられる方も多いと思います
 しかしながら、きものにも製造原価があり、それに適正なマージンを載せることにより価格の開きとなります。安いものは製造に手間がかからず、高価なものは手間ひまがかかっていると言うことです。前にお話しました「手書き」と「型糸目」の訪問着では、その価格に大きな開きがあります。私の店「ホームページ購買部」http://www.ykya.co.jp/shop/tokusen/HO/hotop.htmlの訪問着HO−001〜003は型糸目です。(現在表示していません)HO−004〜006は手書きの京友禅です。特に004は相当高価なものですが、かなり(問屋を)叩いて仕入れました。型糸目と手書きでは、価格にこのくらいの差があります。
  しかし、型糸目の訪問着(たとえばHO−001)を見せられて、「これは手書きです」と説明されれば、うなずいてしまう人も多いと思います。 このあたりが呉服業界の最大の問題だと思っています。販売者が「これは手書きです。」「これは作家物です。」とありもしない付加価値を付けて消費者に売るケースが目立ちます。一方でバッタ商品が出回り、問題を複雑にしています。正当な価格が評価されなくなってしまうのを憂慮しています。
  消費者には是非とも正しい知識と見る目を養ってもらいたいと思います。

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