275.羽織について   
 きもの博物館40 「羽織、コート、絵羽コート」を読みました。質問はふたつあります。
1.羽織も道行きもなく町を歩くのがはばかられるのは、着物の格が高い場合ですか?それとも季節によりますか?
2.羽織を作るための羽織生地というものを売っていますか?長着を作る反物よりどのぐらい短いのでしょうか?
3.羽織の丈には何か慣習がありますか?(たとえば年齢と共に長くなっていくとか・・・)
  以上、よろしくお願い申し上げます。
 きもので外を歩く時に羽織は必要か?必要でないのか?と二者択一で迫られると答えづらいものがあります。
 羽織やコートは洋服のジャケットやコートと似たような面があります。洋服の場合、正装にジャケットはつきものです。男性の場合、スーツはビジネス時の制服で、ジャケットを羽織ります。
  私は就職したての頃、何故真夏の暑い時に長袖のジャケットを羽織らなければならないのかと不思議でした。最近はクールビズもありますが、真夏でもジャケットを羽織るのが礼儀です。しかし、ビジネスマンは始終ジャケットを羽織っているのかと言えば、そうでもありません。真夏の暑い日に近場に簡単な用事で行く時にはジャケットを羽織らない事もあります。 
 ですから、羽織やコートは必ず着なければならないということではありませんが、客観的に次のような場合、羽織やコートを着ない事に違和感を覚えます。
・式服、特にその式の為に着る晴れ着を羽織りものなしで戸外を歩いている姿
・寒い時の羽織物なし
 基本的にはきちんと着る場合(打算的な言い方ですが)は何か羽織られたら良いかと思います。普段着の紬でちょっとそこまで、と言う場合は羽織らずとも良いかと思います。気候や場所その他いろいろな事が関わってきますので、それほど神経質に考えない方が良いでしょう。
 羽織は長着よりも要尺が少なくて済みます。長着は一反約12メートル必要ですが、羽織は約10メートル以下です。一反では余り布が多く出るので、羽織専用の羽尺地と言うのがありました。長着の着尺地よりも安くできるからだったのでしょう。昔は着尺地、羽尺地ともに問屋に山積みしていました。しかし、現在問屋に行っても羽尺地はほとんど見かけません。
 昔は小紋を仕立てると、帯を合わせるのと同時に羽織を合わせて勧めていました。小紋と羽織はペアで作ったものです。しかし、羽織が着られなくなったこと、もう一つはおそらく安価にできるようにと創った羽尺地がいつしか着尺地とそう変わらない値段になり、着尺地で羽織を作るようになったために、羽尺地の必要性が薄れ、姿を消したものと思われます。
  呉服屋にしてみれば、着尺地、羽尺地すべて在庫で揃えておくのは難儀ですので、昔のように着尺で羽織を作るようになった事情もあると思います。
 私の店に一反だけ羽尺地がありますが、今も作っているかどうか分りません。おそらく今は作っていないと思います。
 羽織の丈について年齢との関係は聞いた事がありません。むしろ時代と伴に変わってきたようです。
 戦前は丈が長かったといいます。戦後、丈が短くなり、最近は若い方を中心に丈の長い羽織が流行っているようにも思われます。
 戦後、丈が短くなったのは訳がありそうです。当時、一反で羽織を二枚採る事があったそうです。襟は一幅ではなく、半分に裁っていました。また、一反で羽織を一着作り残りで名古屋帯を作ったりもしました。戦後の物不足と関係がありそうだと私は考えています。一反の着尺地から羽織を二着、または供の名古屋帯を作るというのは、生地を目一杯に使うというところから来ているようにも思われます。
 丈についての慣習は分りません。用途に応じて(コートのように着るのであれば長く、上張りのように羽織るのであれば短く)仕立てて良いのではないかと思います。
  羽織を、ビジネススーツの背広と同様にとらえればいい、というのは大変に明快な説明でした。ありがとうございました。
  二者択一の回答を迫っているつもりは決してありません。着物初心者は「ルールを知らない」ことに関して自信を持てない状態にあるのです。
  もうひとつお考えをうかがいたいことがあります。 5〜6月、レースの道行きを何回か見かけました。若い方々が着ているフリルつきの着物などはあまり好きではないのですが、このレースと道行きの組み合わせは不思議なエレガンスを感じました。こういった、洋物素材を取り入れることに関して、どのように思われますか?
  よろしくお願い申し上げます。
 洋物素材・・・どのような素材を意味するのでしょうか。とりあえず洋服生地と置き換えて申し上げます。
 洋服生地と和服の生地は歴史的にその線引きは難しいように思えます。洋服と和服の生地の一番の違いはその幅にあるとも言えます。和服は小幅、洋服は広幅です。しかし、和服仕立の指南書には、「広幅」の裁ち方というのが出ています。きものは必ずしも小幅で仕立てるとは限らないという事を意味しています。回りくどい言い方をしましたが、現在和服の生地として認識されているものの中にはもともと洋服生地から派生したものも多いのです。
 例えばメリンスは明治の初期に輸入され、初めは「唐ちりめん」と呼ばれて言いました。(関西では「とうち」と言っていたようです)いつしかメリンスは普段着の襦袢に使われるようになりました。
 また、ウールは戦後盛んに着物地として使われたものです。綿や絹もその昔は日本になかったものです。
  そういう意味で、純粋なきもの生地というのはあるかどうかわからなくなってしまいます。
 きものの素材は時代と共に変わって行くというのは否めないことですので、洋服地と和服地の間に一線を引くことはあまり意味がないように思えます。
  問題は、きものに仕立てた場合なじむのかどうか。そして、色柄がきものに相応しいかどうかだと思います。
 さて、レースのコートについてですが、どのようなレースの道行をご覧になったのかは分りません。夏場(春先から)のコート素材としては紗や羅があります。特に羅は目が粗いのでレースと似ています。(羅は織物でレースは編み物なので根本的に違うのですが)最近は小幅物でシルクオーガンジーや綿レースのコート地なども出ています。  洋服地できものを仕立てることに私は別段異論はありません。
  しかし、おっしゃっているフリルつききものと言うのは、素材云々の問題ではなくきものの形の問題ですのでこれはいただけません。「洋服の素材を取り入れる」ことと「洋服のように仕立てる」は問題が違うように思われます。

 ご回答ありがとうございました。 実は先日イタリアのいいレース地(シルク)を手に入れ、これで羽織を作れないかと考えておりました。

> 洋服地できものを仕立てることに私は別段異論はありません。

とおっしゃっていただくと、とても嬉しくなります。

> 問題は、きものに仕立てた場合なじむのかどうか。そして、色柄がきものに相応しいかどうかだと思います。

  この点をじっくり見極めたうえで、仕立てに出すことにいたします。 ありがとうございました。

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