53.一番良い八掛は?  
 こんにちは 先日は更紗の着用年齢の件のご回答ありがとうございました。
 さて、その更紗をいよいよ仕立てようかと思っております。 そこで八掛けを選んでいるところなのですが、結城屋さんでしたら、「一番良い八掛」についてご意見を持っていらっしゃるのではないかと思ってあつかましくまた質問させていただきました。
  表地は伸び縮みのあるシボ高の縮緬です。 「良い」という抽象的な言葉を使いましたが、表地と合うとか、着易さとかをすべて含んで「良い」とお考えのものをお伺いできたらと思っています。
  値段は、とりあえず上限なしで・・(といっても心配ですのでだいたいの予算を伺えると助かります) 胴裏は、あります。 以前、紬で裏をケチって失敗してしまいました。たまにしか着ないうちはわかりませんでしたが、頻繁に着るとアラがみえてくるんですね。
  この小紋もちょいちょい着てみようと楽しみにしていますので、できる限り最高のものを合わせたいと思います。 どうぞアドバイスよろしくお願いいたします。

 「一番良い八掛は?」というご質問には少々戸惑っております。
  八掛について基本的なことを申し上げます。
  八掛の生地は二種類あります。一つは縮緬用、もう一つは紬用です。前者はパレス八掛とも呼ばれますが、後染のものです。後者は駒撚とか紬八掛とも呼ばれ先染めです。
  縮緬用にはボカシと無地があります。
  色の薄い表地に無地の八掛をつけると透けて、胴裏と八掛の間に線が入ってしまいますので、そのような場合はボカシを使います。
  紬用は先染(糸を染めてから織ったもの)ですのでボカシはありません。 縮緬用、紬用と使い分けられてきましたが、紬用は弱く始終着ていると裾が擦り切れてしまいますので紬にもパレスを使う人もいます。
  さて、一番良い八掛についてですが、私の店では常時200枚程度の八掛を用意しています。最近は八掛を置かない呉服屋も多いようです。八掛の色見本帖で合わせるらしいのですが、微妙な色は見本帖では合わせられません。本当は200枚でも足りないくらいなのですがそんなに在庫を置けませんので・・・。
  それだけ在庫を置いてはいますが、生地の種類は一種類です(縮緬用一種類、紬用一種類)。
  胴裏に関して言えば最高級から化繊までお客様の要望に応えられるように四種類(四段階)置いていますが、八掛はそう言うわけには行きません。できるだけ多くの色を揃えておかなければ成りませんので、もしも、四種類の八掛を置こうとすれば在庫は莫大なものになってしまいます。
  そういうわけで八掛について「あれが良い、これが悪い」という知識は持ち合わせておりません。
  ただ、私の店で使っている八掛はもう数十年同じメーカーの物を使っていますが、クレームらしいクレームは頂戴したことがありません。ですから他の八掛については良く分かりません。
  メーカーにしても上記のような事情で、余り質の悪い八掛は作っていないと思いますが、こういう御時世ですので、粗悪品が出ていないともかぎりません。いや、おそらく出回っているでしょう。
  信用できる店で薦める八掛でしたらまず間違いはないと思います。私の店と同じように長年同じ八掛を使っているでしょうから。 生地が良い悪い、見分け方云々に関しては「旅から旅さ〜〜〜〜〜〜ん」教えて下さい。

 実は、昨日近所の安売り店で数種類の八掛を見たのですが、最高で13000円(正札)でした。 その13000円のを良く見てみたところ、素人判断ですが、なんだかあまり良い物のような感じを受けなかったのです。
  そのお店の品揃えが価格重視だっただけなのか、良い八掛けは珍しいのか、実は13000円はかなり良いランクのものなのか、私には分かりかねましたので、こんな質問をしてみた・・というわけです。
  結城様の回答で、例の13000円のは「最高級品」ではないのだろうと分かり、なんだかホッとしています。店で一番高いから・・という判断より、自分の感触を信じてよかったと思います。
  16000円くらい出せば、間違いないものが手に入るのかなという目安も分かり、とても助かりました。ありがとうございました!!
 旅から旅です。 八掛の良し悪しは、簡単に見分ける方法は、生地の重さに尽きるでしょう。
  ぼってりと重いのが、良い八掛です。 さて、ゆうきくんもおっしゃっていましたが、八掛には縮緬系と紬系があります。 そもそも、この分類は表地との釣り合い、つまり袷に仕立てたときに、表地と八掛は合わさって袷の着物になるわけなのですが、その表地と八掛の湿気による収縮率を合わせるという目的の為に、この二種類があったのです、本来はね。
  ところが、この目的は,現在では、あまり意味をなさなくなりました。
 八掛の役目は表地の縮緬が湿気を吸って、縮んだときに、一緒になって縮んでいくために、縮緬系の八掛をつけたわけです。 なぜ、一緒になって縮んでいかなければならないかというと、それは袷の着物の場合、 袋になるのを嫌うからです。
  袋になるというのは、表地もしくは裏地が異様にたるむ状態のことを言います。
  さて、僕は前述の表地が「昔」の縮緬、と言いました。 この「昔」の縮緬というのは、実に良く縮みました。 すごい、収縮率でした。生地巾が一尺あったとしたら、完全に水につかると、 半分の巾になるなんてことは当たり前の事だったのです。 だから、じわじわと湿気を含んでいくと、徐々に縮んでいく事は想像に難くないでしょう? そういうときに、八掛も徐々に縮んでいく事を期待して、これまた「昔」の縮む縮緬の八掛をつけたのでした。
  ところが!ところがです。 世の中のひとたちは、縮む縮緬を嫌いだしたのです。 その気持ちは理解できます。 なにしろ、しぼが立って、生地自体が美しいんだけど、強烈に縮みつづけていました。 たとえば、寒い冬に家の中はストーブを焚いて暖かく、でも湿気(蒸気)があって、外は寒い(湿度が低い)ときに、外から家の中に入っただけで、どりゃーと縮んだ事もあったのですよ。
  それで、時代の要求は「縮まない」縮緬を望むようになりました。 でも、「縮緬」というからには、シボも望んだのです。 そこで、変り織りの縮緬というものができました。 昔の縮緬というのは、強撚糸(きょうねんし)と言って、糸をぐるぐるぐるっと撚っていました。その目的は、撚糸にすると糸が強くなるからです。 そうすることによって、結果的にシボができたと僕は理解しています。 いまの変り織りの縮緬は、すこしだけ糸を撚ります。 つまり、糸を強くする目的のためではなく、シボを出すために撚りを、少しだけかけるのです。 こうすることによって、現在の「縮緬」は縮まなくなりました。  
 そこで、八掛も縮まない生地を使うようになりました。 八掛だけ縮む生地では具合が悪いですからね。 素材的には,表地と同じ変り無地縮緬の軽めの生地が使われるようになりました。
  こうして、見た目には縮緬系の表地と八掛が揃ったわけです。  
  さて、このへんで、みなさんはこう思うでしょうね。 紬の八掛はどうなったの?ってね。 本来は、紬の八掛は平織りで縮みません。 ですから、同じく縮まない平織りの紬の裏地に最適だったわけです。 さて、ここで、みなさんはお気づきでしょう。 さきほどの縮まない縮緬の八掛で紬の裏地にできないのかってね。
  はい、できますよ。 十分にできます。縮まないもの同士ですもんね。 では、どうして、今でも2種類の八掛が必要なのでしょうか? やはり、それは「見た目」なのだと僕は思っています。
  縮緬系の表地には縮緬系の八掛をつけないと、 なんだか手の届かない背中がこそばゆいような感じがします。 おなじく、大島紬の八掛にはつるっとした両駒の八掛をつけないと、しっくり来ない。 こういう人間の持つ感性が、いまでも、2種類の八掛を必要としているのではないでしょうか。 だからチェニーパレスのような、つるっとした八掛で、縮緬系も紬系も使ったらどうでしょうかね?ゆうきくん? 在庫、半分で済むよ。ではでは、またね。(旅)
 とっても丁寧にありがとうございました。 息を詰めて(?)読んでしまいました。
  さて、ということは、ちぢむ縮緬にあわせるための八掛は、現代ではもう見捨てられてしまったということなのでしょうか・・ 今仕立てようとしているのは、まさにその縮むほうの縮緬だと思うんです。 古いものではありませんので、そんなにひどくは縮まないかもしれませんが、横に引っ張るとびよーんと伸びてしまう生地です。 薄手の縮緬一反用意しておいて、その都度切って染めてもらうとかしかないんでしょうか・・それとも、現実には気にするほどのことではないという事なんでしょうか。
 縮む縮緬の表地にあわすために縮む八掛を用意しなければならないということを、 誰もが忘れてしまったのかもしれませんね。 でも、全国の老舗と呼ばれている呉服屋さんならお客様の要望に応えてくれると思いますよ。
  ちなみに、ゆうきくんも老舗の呉服屋さんです。 一度、相談されてはいかがでしょうか? ね、ゆうきくんなら、大丈夫だよね?(旅)

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