100.加工着尺とは
 先日、ちょっとした用事で料亭に行く機会があってそのような時には どんな着物がふさわしいか、ということを呉服店で質問したところ 「加工着尺がよろしいのでは?」と言われました。
  最近ネット上でも 加工着尺ということばを時々眼にしますが、加工着尺ってどんな種類の 着物のことでしょうか?
  どうも小紋の一種、ということだけは分かるの ですが。(加工してある着尺、という意味だったら付け下げも入って しまいますよね?)
  どうぞよろしくお願いします。

 残念ですが、正確にはお答えできないかもしれません。
  呉服用語は曖昧な使い方をすることは何度も申し上げてきました。御多分に漏れず、「加工着尺」という言葉も統一された意味で使われていないように思えます。
  文化出版局の最新きもの用語辞典では次のように説明されています。
『絵羽染め方式によらずに、反物のままで付下げに模様を手描き染めで染め出した和服地を言う。仕立て上げると、衿、おくみ、身頃、袖などに模様が配置された状態になる。』
  上記の説明だと丸巻きの付下げを表すように思えます。辞典に掲載されているのですから、加工着尺とはそのようなものかもしれません。 しかし、私が京都の問屋にいた自分、そして現在問屋さんや染屋さんと話をする場合、そのような意味では使われていないような気がします。
  京都にいた時にも「加工着尺」という言葉は飛び交っていましたし実際に使われていました。
  私の周りで使われていた加工着尺の意味は「高級な小紋」と言った印象があります。「加工着尺とは一体何を指すのですか。」といった質問をするでもなく、何となくそんな意味で使われていたような気がします。
 「着尺」とはそもそも「着物一着を仕立てるに足る要尺の生地」という意味ですが、狭い意味で小紋を指すこともあるようです。「着尺」に対する言葉は「羽尺」です。羽尺は羽織を仕立てるのに着尺一反をつぶすのはもったいないので要尺をきりつめて造られるようになりました。御対で作るときは二反で造っていましたが、それではもったいないと着尺と羽尺を併せた生地がアンサンブルです。
  その意味では留袖でも訪問着でも「着尺」なのですが、それらは「絵羽物」と呼ばれますので、それとは区別して小紋を着尺と言うようになったのかもしれません。
 さて、「加工」という意味ですが、これは私の推測の域を出ないのですが、小紋の染は色々あります。その中で、型物や捺染ではない「手で加工した」ぐらいの意味が「加工」となったのかもしれません。
 では「加工」というのはどのような加工を指すのかと言えば、これもはっきりとした定義はないのですが、手描きや地紋起し(地紋のある白生地に地紋に沿って手で色を挿した染)手刺繍などでしょう。
 小紋というのは大変幅の広いきものです。結婚式に着て行けるような格の高いものから、ほんの普段着に着る物まで様々です。黒留袖と言えば、高価だろうと廉価だろうと、柄が重かろうと軽かろうと、それはセンスの問題で黒留袖は黒留袖として同格に結婚式できる事ができます。しかし、小紋の場合、小紋ならば何でも結婚式に着て行けるわけではありませんし、普段に来ては重すぎて普段には着れない小紋もあります。
  そう言う意味で、その呉服屋さんは「加工着尺」すなわち「上質な小紋」の意味で言われたのだと思います。
 しかし、先に申し上げましたように「加工着尺」の意味がはっきりしません。私の言う「加工着尺」とは違った意味で使っているかもしれません。どのような意味で「加工着尺」と言っているのかはその呉服屋さんにはっきりと聞いてください。
 最近はお医者さんでも病名や病状、処方箋の薬効など詳しく説明する時代です。呉服屋はお客様にきちんと商品の説明、TPOの説明をする義務があります。口先だけの商売がまかり通っているような呉服業界ですから、消費者が呉服屋にきちんとした説明を求める事によって業界も良くなると思いますので。
 知識不足と文才の稚拙さで分かり難いかもしれません。分からないところがありましたらまた質問してください。

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