『酢蚕糸、柞蚕糸 』

 博多織工業組合証紙の説明に「酢蚕糸」という記述がある。おそらく「酢蚕糸」は「柞蚕糸」を意味するものと思う。「柞」の字は常用漢字にないために「酢」の漢字を当てたのだろう。
 では「柞蚕糸」とは何か?
 広い意味で絹糸を履く蛾は世界中にたくさんいる。日本人が長い年月を掛けて育ててきた蚕はその一種で家蚕と呼ばれている。家蚕は昔から品種改良がおこなわれ、着物に適した上質の絹糸の原料とされている。
 これに対して、家蚕と同じように絹糸を履く野生の蚕が世界上に生息している。これは家蚕に対して野蚕と呼ばれている。柞蚕は、この野蚕の一種である。野蚕には他に天蚕やムガと呼ばれるインドの蚕などまだまだ種類はある。
 日本の家蚕は長い年月を掛けて日本のきものに合う生糸を創ってきた。いわば品種改良をおこない均質で細い生糸を創りだした。これに対して野蚕から得られる絹は天然の生糸と言うべきもので、色は金色(と言われる)ものから薄緑、薄茶で断面は扁平のものや多孔性のものもある。

 野蚕の生糸は本来日本のきものには合わないものだけれども、その色や希少性が珍重され、最近きものにも使われている。
  柞蚕はこれらの野蚕の一種だけれども中国東北部で生産され、その量は他の野蚕に比べれば桁違いに多い。いわば野蚕の体表格である。
 「柞蚕糸とは野蚕の代表」と言うことができる。博多織工業組合で使っている「酢蚕(柞蚕)」と言うのは、野蚕全てを指して言っているのかもしれない。(博多織工業組合に聞けばわかることだけれども)すなわち、博多織に用いれる生糸は「野蚕ではなく家蚕」と言う意味のように思える。

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