明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅱ-ⅱ 店頭販売 (その2)

ゆうきくんの言いたい放題

私の店では「店頭販売」をしている。お客様から依頼があれば商品を持って訪問販売をすることもある。しかし、それはお客様の依頼があってはじめて訪問するのである。

店頭販売に拘るのは理由がある。

まず、必要があってお出でいただいたお客様には、より多くの商品を見てもらい納得する商品を買っていただく為である。より多くの商品、と言うのは単に数の話ではない。

「付け下げを・・・・。」とお出でになってお客様と話をするうちに、実はそのお客様が欲しいのは訪問着であった、と言う事もあるし、また色無地で事が足りる場合もある。最近は着物が一般的でなくなりお客様の知識が希薄な場合も多い。お客様の話を良く聞き、どんな着物がそのお客様に奨めたらよいのか判断しなければならないケースも多い。店頭であれば、お客様のどのような急な要望にもお応え出来る。

しかし、昨今の呉服店では消費者が店頭販売に嫌悪感を持っているようにも思える。

「呉服屋さんは敷居が高くて入れない」

という言葉を良く聞く。決して敷居は高くはないのだけれども何故そう言われるのだろう。

高価な商品を扱っている、と言う面はある。しかし、いくら高価な商品であっても消費者は商品を見定めて買うはずである。高価な着物を訪問販売で持参してきた数点の商品から選ぶと言うのは不合理である。

しかしながら、消費者は展示会や訪問販売などで着物を購入する事がが多い。これらについては後に別項で詳しく述べるけれども、これらは大変問題が多い。

店頭での購買は、前述したとおり消費者が自分で選んだ店で、自分の目で商品、価格を確認して、他店の商品とも比較できる。消費者にとっては文字通り王道であるはずなのだが、何故敷居が高いといって展示会や訪問販売で着物を購入してしまうのだろうか。

ひとつの問題として、呉服店の店頭が健全ではなくなっているせいがある。

「呉服屋に入ると高価な着物を買わせられそうで」

という言葉も聞こえてくる。

「買わせられる」とはどういうことだろう。着物を買うのは消費者である。買う買わないの主導権は消費者にある(はずである)。その消費者が「買わせられる」のであれば、その店頭は明らかに狂っている。そのような店は全てではないにしても、多くの消費者が「買わせられる」あるいは「買わせられそうになる」経験を持っているのだろう。

もっと具体的に次のような話も聞いたことがある。

「何気なく呉服店に入ったんだけど、店員に囲まれて思わぬ買い物をしてしまった。」

次々に商品見せられて、試着までさせられる。「買えない」と言えば「ローンがあります」と迫られる。そして、いつの間にか高価な着物を買って(買わされて)しまった。」

着物を買うつもりでもなく呉服店に入ったところが、高価な着物を買わされる。それを業界の一部の人は、「商売の上手な呉服屋」と褒め称えるかもしれない。はたしてそうだろうか。

買い物の主導権は消費者にある。それを捻じ曲げる店頭は狂っているとしか言いようがない。呉服店は商売の原点に立ち戻るべきである。

私が若い頃パリでの話である。初めての海外旅行、一人旅だったので余りきれいな身なりをしていなかった。パリの中心部であるメゾンに入った。かばん屋だった。少し太ったオバサンが店番をしていたが、私がカバンを見ていると近づいて来た。フランス語で何か話してきたが私はフランス語は分からない。すると人差し指を自分の目に当てながら何か言ってきた。

「あなたは見るだけですか。」

と言っているようだったので、私は

「Yes,I am just looking.」

と言うと、納得して離れていった。

また、オペラ通り近くの紳士服店にスーツを買おうと入った時、オーナーと思われる年配の男性がいたが、話しかけてくる様子もなかった。

私が、スーツをオーダーしたいと告げると、その男性はあれこれとスーツを持ってきて奨めてくれた。わざわざ店の奥からもスーツを出してくれたが私はどれも気に入らず、「店頭に飾ってあるスーツが良い」と伝えた。

その男性はちょっと渋い顔をした。店頭のディスプレイに手を掛けるのがいやだったのかもしれない。それでも店頭のスーツをはずして試着させてくれた。

私が、「これがいい」と言うと、ウエストと丈を計ってくれて「あさってにはできる」と言ってくれた。私はそのスーツが気に入って擦り切れるまで着ていた。

上記、パリの二軒のメゾンの対応は店頭売りの王道ではなかろうか。もちろん日本の感覚とは違うので、日本人の私には違和感もあったけれども、来店されたお客様の要望を十分に尊重しているのである。

私は来店されたお客様にはできるだけ自由に商品を見てもらうことにしている。何かを探しているようなお客様には、

「何かおさがしですか?」

と声を掛けるようにしている。最近は、突然着物を着ることになり、小物や着付け用品を買いに来る客も多いけれども、中には自分で探している商品が分からない客もいる。

「何かおさがしですか?」

と言う問いに、

「はい、着物を着る時に使うゴムでできた、クリップのようなものが付いている道具。」

見たことも無く名前もわからない商品を探している。

「はい、コーリンベルトですね。コーリンベルトはこちらにございます。」

そう言って商品をお勧めすることもある。

お客様が、

「何かおさがしですか?」

の問いに、

「いえ、きれいなお店なので入ってきたんです。見るだけでも良いですか。」

と言う方には。

「ええ、どうぞごゆっくりご覧ください。」

と応えることにしている。

お客様が自分の欲しい商品を自由に見ることのできる店内。お客様が困った様子を見せればすぐに対応できる接客。何でもお客様の相談に対応できる店員。これらが店頭販売には必要であり、それを越えてはならない。

商品を買う買わないの主導権は自分にあると言う事を消費者には自覚して欲しい。そして、それに反するような接客であれば、その店はおかしいと判断すべきだと思う。

呉服業界を正常な姿に戻す為にも消費者の店頭販売に対する適切な判断と対応をお願いしたいところである。

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