明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅱ-ⅳ 展示会 (その5)

ゆうきくんの言いたい放題

③ お土産(ノベルティ)

展示会で来場された方にお土産を渡すのは昔から行われていた。

「せっかくお出でいただいた方にお土産を。」

と言うのは、日本の心かもしれない。

呉服屋の展示会といえば、やはりそれらしいお土産を用意する。私も京都での修行を終えて店に戻った当時(30年前)は、京都で見聞きした和菓子等を取り寄せたりもしていた。

ほんの数百円のお菓子でも、山形では珍しいと喜ばれていたものだった。

お客様はお土産をあてにしていらっしゃるわけではない。ちょつとした心づけがお客様の気持ちを慰める。お土産はそういった意味で使われていた。

しかし、何時の頃からか、お土産はその域を脱してしまっていた。展示会で配られるお土産は、その質、金額ともに跳ね上がり、それも去ることながらお土産が展示会の前面に出るようになった。

「ご来場のお客様には○○を差し上げます。」

と言う類の案内が目立つようになった。

仕入れの為に京都の問屋を訪れると、売り場に所狭しと京都の産物を並べている処もあった。高級で珍しい京菓子から工芸品等が並べられている。

「どうしたんですか、これは。」

そう聞くと、問屋の担当者は、

「これはノベルティの提案です。こういったものをお土産に使うとお客さんがあつまりますよ。」

その説明に、私はつい、

「なんだお菓子屋を始めたのかと思いました。」

と、ついいやみを言ってしまうのだけれども、どうも商売の本筋から離れたところで問屋さんが土産品選びに一生懸命に成っているのを見て、何か違和感を感じていた。

店に度々足を運んでくれる販促業者が、ある時

「いや~忙しくて、これから石巻へ行かなきゃならないんです。」

と急がしそうに話していた。

「石巻のお客さんですか。」

そう聞くと、

「いや、あるお店でカニをノベルティに使ったんですがね、お客さんが着過ぎちゃってカニが足りなくなったんです。すぐに手配してくれというのでこれから石巻まで走らなきゃ成らないんです。」

詳しく聞くと、展示会に来場された方にカニを一杯差し上げるという企画だった。大々的に宣伝したので客が大勢詰め掛けたということだった。

「そんなにお客さんが多いんだったら、相当の売上でしょうね。」

そう聞くと、

「いや、買う人はそう多くは無いですよ。ほんの小さなものを買ってお茶を濁す人もいますしね。」

と少し渋い顔だった。

お客様は展示会に集まるのか、カニに集まるのか分からない。当然歩留まりを考えてのことなので、赤字にはならないだろう。配ったカニの代金は売れた商品に上乗せされている。

他にも鮭を一匹という話も聞いたことがある。更に人目を引くようなノベルティが次々出てくるのだろう。

お土産は、ほんの手土産からお客さんを集める強力な手段となってきている。その分、商品の価格、質に上乗せされているとしたら、「呉服の展示会とは何なのだろう。」と疑問を抱かざるを得ない。

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