明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅱ-ⅴ 消費者セール(その3)

ゆうきくんの言いたい放題

消費者セールは、問屋が設定して小売屋がお客様を集める構図である。それ自体は悪いことではなく、効率的に商売をするには良い商法ともいえる。しかし、最近はそれを逸脱する例も見られる。

呉服屋の役割は何であろうか。

呉服屋に限らず、専門店はお客様に専門的知識を提供しながら、お客様に最も満足頂ける商品を買って頂くのが使命ともいえる。

洋服でも食品でも、また電気製品や調度なども購入する場合は、お店の人に説明してもらい、分からないことがあれば質問して買う商品を選定する。少なくとも専門店であればお客様の質問や要望に応える知識と技術を持っていなくてはならない。

呉服という商売は実に奥が深い。他の業種も同じかもしれないが、呉服の知識を100%持ち合わせることは不可能かもしれない。それでも呉服屋は日々努力してお客様の要望に応えるべく勉強している。

しかし、消費者セールではそれがおざなりにされているケースも見られる。

小売屋がお客様をお連れして商売をするのであれば良いが、会場では小売屋がお客様とは隔絶してしまうことがある。

消費者セールでは、専門的にお客様の相手をする(商品を売る)「マネキンさん」と呼ばれる人が配置される。着物をきちんと着て、それぞれの商品を担当して売り場に配置される。大変愛想の良い面持ちで立っているが、それぞれ担当した商品を売るように指示されている。担当した商品の売れ行きがマネキンさんの成績になるらしい。

お客さんが自分の担当するブースの前を通りかかると声を掛けて商品を勧める。その商品を説明し実に巧くお客様に商品を勧める。お客様を連れてきた小売屋は何もしなくてもマネキンさんが着物を売ってくれる。

小売屋にしてみれば、自分の知らない商品知識を持ち合わせたマネキンさんがお客様を満足させてくれる様に思われるが実は問題が生じている。

呉服屋のお客様、とりわけ消費者セールにお連れするお客様となると、小売屋の上客さんである。そのお客様がどんな着物を持っているか、どんな時に着物を着るのか、価格的にどのくらいの物を望んでいるのか。そして、好みは等、十分に小売屋は知っているはずである。しかし、マネキンさんはお客様の事は全く知らない。ただ自分の担当する商品売ろうとしてくる。

私も昔消費者セールに行った時、次のような事があった。

そのお客様がとても買えそうにない高価な商品をしつこく勧める。私はその場に居合わせ、「その金額では支払いも大変ですからよく考えてください。」と雰囲気を壊さないようにお客様に諭した。しかし、そのマネキンさんは畳みかけるように、「支払いなんかいいですよ。ゆっくり払えばいいじゃないですか。ねえ結城屋さん。」と食い下がる。

お客様が支払いできるかどうかはマネキンさんには関係がない。ただ売ろうとするのである。

また、次のような事もあった。

私の店のお客様がマネキンさんに捉まり、商品を勧められていた。そのお客様は既に買い物を済ませている。それでも更に着物を勧めるマネキンさんに対してそのお客様が「もうあちらで決めましたので。」と言うと、そのマネキンさんは、「あら、そうしたらあちらの商品はやめてこちらにしたらどうですか。」と畳み掛ける。

マネキンさんはお客様の事情も小売屋の事情も分からずに商品を勧めるだけである。

そのような商いはお客様の目にはどのように映るのだろうか。

豊富な良い商品から着物を選べると思って来てみると、思いもよらない物を勧められる。小売屋の主人は自分の好みや懐状態も分かっていると思っているお客様には大変失礼な話である。

つづく

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