明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅲ-ⅰ 常識・しきたりとは何か(その2)

ゆうきくんの言いたい放題

辞典で「しきたり」と引けば『古くから決まって行われるやりかた。ならわし。慣例』とある。また「常識」と引けば『その時代や社会で一般人が共通にもっている知識、または判断力・理解力。わかりきった考え。ありふれた知識。』とある。

きものの世界で言われる「しきたり・常識」とはそのような定義で計れるものなのだろうか。

しきたりについての話題は大きく分けて、「格のしきたり(TPO)」と「季節のしきたり(TPO)」の二つがある。

「あなた、この席にそんなきものを着て来てはいけませんよ。」というのが「格のしきたり」である。

「今の季節は、○○を着なければなりません。」というのが「季節のしきたり」である。

どちらも言われた事のある人は多いと思う。まず、「格のしきたり」について考えてみよう。

私も着物の世界を良く見てきたつもりだし、呉服屋としてお客様にアドバイスしなければならない立場でもある。

「来月○○が有るのですが、何を着て行ったら良いのでしょう。」と言うお客様の質問には的確に答えなければならない。お客様もそれを期待しているだろうし、着物の経験が少ないお客様にとっては神の声を聞くような気持ちかもしれない。

しかし、私は神ではないし100%正確に答えることはできないと思っている。それは何故か。きものの世界で言う「しきたり・常識」とは『古くから決まって行われるやりかた。ならわし。慣例』『その時代や社会で一般人が共通にもっている知識、または判断力・理解力。わかりきった考え。ありふれた知識。』とは違うように思えるからである。

きもののしきたりとは「古くから決まって行われるやりかた。」なのか、と言われれば疑問が残る。「格のしきたり」を良く観察してみれば、巷で言われているしきたりは、そう古いものではないことが分かる。

私が子供の頃、卒入式に着物を着てくる父兄(母親)は結構いた。彼女らが着てくるのは決まって色無地に黒絵羽織だった。訪問着や小紋を着てくる人が居たのかどうか分からないが、当時、色無地に黒絵羽織は常識だった。

しかし、わずか50年も経ずして黒の絵羽織は業界でも姿を消している。

「女性の正装では羽織を着ない」というしきたりも巷で通っている。しかし、前述の黒絵羽織もそうだけれども、更に昔戦前には女性の正装は縞御召に黒羽織だったそうである。

正装どころか「女性は羽織は着ない」と言ったことも良く聞いた。私が子供の頃、母や祖母は、お客様が着物を選ぶと必ず帯と羽織を合わせて奨めていた。「この小紋には、この羽織が良いでしょう。」と言う具合に。それがいつの間にか「羽織は着ない」事になってしまったらしい。そして、とうとう呉服の商品で「羽尺」が姿を消してしまった。それでも最近は又若い人が長羽織を着ていたりする。

「羽織を着る着ない」がしきたりだとするとおかしな話である。それは「しきたり」ではなく「流行」というものだろう。

「付下はどのような時に着るのですか。」と言う質問も良く頂く。もちろんお答えはするけれども、付下は昭和30年頃にできたものである。そして、付下の形式は当時とは大きく変わってきている。(「きもの講座2.きものの格について」http://www.kimono-yukiya.com/kenkyukai/kimonokoza/02.html参照)

50年足らずの間にその性格が大きく変った付け下げについて、それをしきたりの議論に持ち込むのはどうだろうか。

このような例は枚挙にいとまがない。

つづく

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