全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅲ-ⅰ 常識・しきたりとは何か(その4)
さて、もう一つのきもののしきたりである「季節のしきたり」はどうだろうか。
日本の着物は季節に敏感である。南国で一年中アロハシャツと言うのとは違い、季節によって微妙に着るものが変る。
季節により袷、単衣、薄物と変り、柄も季節によって選んでいる。何故日本の着物は季節に敏感なのか。そしてそれは何がそうさせたのか。
それは、四季がはっきりしているという日本の気候が係わっていることは否めない。そして、日本人はその季節の移り変わりを生活に取り込み、生活をより豊かにしてきたという背景がある。
衣装のみならず、食べ物、住まいでも同じである。旬の物を口にして季節を感じ、季節に応じて簾をしつらえたり炬燵を掘って季節に合った住まいに変える。日本人と季節は切っても切れないものがある。
季節のTPOは其処から生まれてきたものである。決してTPOが先にあったわけではない。
さて、季節のTPOは、袷→単衣→薄物(夏物)→単衣→袷のサイクルで変るのはご承知の通りである。そして、その時期は、袷が10月から5月、単衣が6月と9月、薄物が7月8月と言われている。
袷から単衣に変れば、「いよいよ春本番」と言う感じがし、薄物になれば「夏だなぁー」と感じる。袷になれば、「だんだん寒くなるな。」と思える。人の装いを見て季節を感じるのも日本の着物の良さかも知れない。
しかし、教科書通りのTPOは困惑をもたらすこともある。
地球温暖化のせいばかりではないけれども、春夏秋冬気温は連続的に変化するとは限らない。夏は暑く冬は寒いことは誰でも知っているけれども、4月でも30度を超える日もある。6月でも冷たい雨が降る日には20度を下回ることもある。冬だからと言って寒い日ばかりが続くわけではないし、夏は暑い日ばかりとは限らない。
どちらかと言えば地球温暖化のせいか平均気温は上がっているように思える。
5月の暑い日に袷の時期だからと言って汗を流しながら袷の着物を着ている人を良く見かける。聞いてみると、「まだ袷の時期ですから。」と言う答えが返ってくる。
着物のTPOのサイクルに従うのは大変だな、と言う気もしてくる。
この季節のTPOは着物のしきたりなのだろうか。そうだとしたら何時頃からそう決まったのだろうか。それは『古くから決まって行われるやりかた。ならわし。慣例』なのだろうか。
着物の歴史を紐解いてみる。確かに日本には衣替えの風習があり、季節ごとに着る物を変えていた。
日本の伝統を色濃く残す京都の舞妓さんは、年に4回衣替えをする。袷、単衣、薄物に含み綿という要素を取り入れて季節をより細かく表現している。
ふくみ綿と言えば、綿入れという着物がある。綿入れと言うと綿を入れた半天、綿入半天を想像するかもしれないが、昔は長着にも綿を入れていた。お客様に古い着物を見せてもらったら綿入れの振袖があった。北日本ならではかも知れないが、暖房の完全でなかった昔は綿入れで寒さから身を守ったのだろう。
そうすると昔は、袷、単衣、薄物の他に綿入れもTPOのサイクルに入っていたかもしれない。
季節によって着るものを変える、と言う大前提は昔からあったにしても、綿入れの例を見れば分かるように時代と共に微妙に変化してきたようにも思える。
つづく