全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅲ-ⅲ 本当のきもののしきたりとは(その2)
何時どんな着物を着るべきか、それには一元的な回答はない。この問題に迷っている人は常に一元的な解答を期待している。
きものTPO早見表なるものも出回っている。それを見れば何時何を着れば良いかが即座に分かるという。しかし、これこそきもののしきたりに混乱を与えている。
「結婚披露宴に出席する時は何を着るか」早見表を見ればその回答が書いてある。訪問着や色留袖、付下げ、色無地など、個々の早見表によって内容が異なっているのも問題だが、果たしてその通りに着物を選べば正しいのだろうか。
「結婚披露宴」と言っても一元的ではない。最近は特にその傾向が強い。古式ゆかしい披露宴から、仲人のいないレストランでの披露宴。居酒屋での披露宴もある。それらの披露宴にはそれに相応しい衣装で臨まなくてはならない。
また披露宴におけるその人の立場もある。速見表に「紋が付いていれば色無地でも可」と書いてあったとしよう。その言葉通り色無地で披露宴に出席するのは良いが、主賓であった場合はどうだろう。主賓としてスピーチをする立場であれば色無地と言うわけにはいかないと思うがどうだろうか。
結婚披露宴だけではなく、慶事弔辞あらゆる場合において、その場その場のシチュエーション、自分の立場で着るものを考えなくてはならない。
以前、きもの春秋に書いたけれども、私は結婚披露宴に浴衣で出席したことがある。友人の息子さんの結婚披露宴だったが、それは私の本意ではなく友人(新郎の父親)のたっての頼みだった。我々の属する会の会服となっている浴衣を着て来て欲しいということで仲間数人と共に浴衣での出席となった。
浴衣で結構披露宴はどんな指南書を見てもご法度であろう。しかし、出席者は事情をよく飲み込み、披露宴は盛り上がった。
「他人に不快感を与えない着物を着る」という原則に当てはめれば、その場で着るべき着物は見えてくる。むしろ巷でしきたりを一元的に決めようとする論争がそれを阻んでいる。
早見表の功罪はまだある。着物用語の定義の曖昧さである。着物の用語は非常に曖昧に使われる。「付下げ」と言う着物の形式は統一されているだろうか。「袋帯」「名古屋帯」はどれも同じだろうか。
「付下げ」を着ていったつもりが、「それは付下げではありませんよ。」といわれる可能性は十分にある。「袋帯」と言っても様々な袋帯がある。「留袖には袋帯」と言う言葉に従い紬の袋帯を締めたらどうなるだろうか。「名古屋帯」にはフォーマル物から洒落物もある。更に名古屋帯には染帯、織帯がある。
早見表に挙げられる着物や帯の種類は特定されているとは言えない。着物を十分に分かっている人であれば、「その場合は名古屋帯と言ってもフォーマル物を指している」と察することはできるが、初心者が早見表に頼ろうとすればそれもおぼつかない。
きもののしきたりは、早見表等一元的に言い表せるものではないことを覚えておかなくてはならない。