全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅳ ⅳ 寸法について(その3)
着物には「並寸」と呼ばれる寸法がある。「並寸」というのは「標準寸法」というよりは、「基準寸法」と思ったほうが良い。身幅や裄丈など並寸で指定されているが、これはその数値そのものにも意味があるが、寸法相互間のバランスも表している。
例えば身幅について言えば、前巾は6寸(22.5cm)、後巾は7寸5分(28.5cm)ということに成っている。採寸する場合は、「前を並より少し広目に。」とか「後ろ巾は並より五分出し。」というように使われる。
並寸を基準としてどの位広く(狭く)するのか、と言う数値的な意味もあるが、前巾と後巾のバランスも考慮して決める。巾の拾い人は、前巾後巾を必ずしも同じ割合で広げるとは限らないが、相互のバランスは並寸を基準にして考慮する。
さて、女性の裄丈の並寸は1尺6寸5分(62.5cm)である。最近の女性の体格がよくなったことから、並寸の裄丈で仕立てる人はほとんどいない。大抵は5分出し(1尺7寸)や1寸出し(1尺7寸5分)が多い。また1尺8寸という人もいる。しかし、中には1尺9寸(通常の反物巾で出せる最大の裄丈)以上を要求して、「私は裄が長いから着物は着れないの。」と言って行く人もいる。身長が180cmというような特別背の高い人ではなく、せいぜい165cm位の人である。これはどういうことなのだろうか。
次の表は、某アパレルメーカーのブラウスの標準裄丈である。(単位 : cm)
号数 | 3号 | 5号 | 7号 | 9号 | 11号 | 13号 | 15号 |
ゆき丈 | 72 | 73 | 74 | 75 | 76 | 77 | 78 |
号数が必ずしも身長を繁栄したものではないが、最も短い3号サイズの裄丈が72cm。最も長い15号の裄丈は78cmである。現代の日本人の中で最も裄の短い人は72cmと解釈できる。もしも、背は低いが身幅が広い15号サイズの人は裄丈を72cmに直すことになる。
日本人のブラウスの最も裄の短いサイズは72cm。しかし、前述したように通常の反物でできる最大の裄丈は1尺9寸(72cm)。洋服のサイズ表に従えば、ほとんどの日本女性は通常の反物で裄丈が確保できずに着物は仕立てられないか、袖に剝ぎを入れることになる。並寸と言われる裄丈は、1尺6寸5分(62.5cm)。3号サイズの裄丈よりも更に10cm近く短い。3号サイズと15号サイズのブラウスの裄丈の差は6cm。並寸が昔の人を基準にしたとは言え、昔の日本人女性はそれほど小さかったのだろうか。そんなことはない。因みに裄丈が62.5cmの洋服と言えば、身長140cmの子供服である。並寸が用いられていたのはそう昔ではなく、私の知っている範囲でも着物を長く着ている人であれば、裄丈はせいぜい1寸出しである。戦前戦後の人達の平均身長が140cmと言うことは絶対にない。
これは何を意味するのか。
着物と洋服では、適正な裄丈の測り方が異なるのである。
洋服の裄丈は腕を下ろして、首の付け根の中心から巻尺で肩から腕に沿って測る。一方、着物の裄丈は腕を横に真っ直ぐ伸ばして首の付け根より手首まで直線に測る。
実際に測ってみれば分かるけれども、洋服の方が長くなる。3号サイズの人が着物の並寸の人と同じだとすれば約10cmの差がある。
それ程裄の長さが違えばどうなるのか。きもの場合、腕を横に伸ばした場合は手首が隠れるが、腕を下ろした場合、手首は隠れず露になる。それでは、冬は寒かろうと思われるが、きものの裄丈とはそのようなものである。昔の人の着物姿を見ると、ほとんどが腕を露にしている。中には「半袖では?」と思われるような裄丈の人もいる。
何故着物の裄丈は(洋服に比べて)短いのか。節約するために幅の広い反物を織らなかったのかもしれないが、本当のところは分からない。ただ、私が推測するに、もしも腕を下げたときに手首まで裄が有ったとしたら、手を横に伸ばせば袖が手の甲に被ってしまう。また、洋服と違って筒袖ではないので、袖が邪魔になるといった事情もあったかもしれない。
とにかく覚えておかなければならないのは、裄丈の計り方が洋服とは違い、ずっと短いと言うことである。
それでも最近は洋服の影響があり裄丈は体格以上に長くなっている。