明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅳ ⅳ 寸法について(その4)

ゆうきくんの言いたい放題

さて、裄丈が長いのは個人の好みとも言えるので、長い裄丈を要求する人に対して仕立て可能な範囲であれば、無理やり短くさせることはできない。

しかし、そこで別の問題が起こってくる。

先に、1尺幅の反物で裄丈は1尺9寸は仕立て可能であることは書いたが、通常の体格の女性が裄を1尺9寸にした場合問題が生ずる。

裄が1尺9寸とすると、肩幅9寸5分、袖幅9寸5分にしなければならない。縫い代をとった反物幅いっぱいである。それで裄丈は採ることができる。

しかし、着物の構造を考えてみると、肩幅は後幅とつながっている。後幅の並寸は7寸5分。肩幅が9寸5分とするとその差が2寸(約8cm)になる。後の裾から肩まで1枚の布で出来ている。後巾で裾から上がって来た布は、身八つ口の辺りから次第に広がり肩幅となる。その差が2寸である。イメージとしては裃の形を考えればよい。腰の辺りの巾よりも遥かに広い肩幅。そして、きものの場合は、そこに袖が付いてくる。裃に袖を付けたとしたらどのような着物になるか想像がつくだろう。着物として形が治まらなくなる。弊害は見た目ばかりではない。後巾の寸法は、その人の体形を反映している。標準体形であれば極端に肩幅の広い人はいない。肩巾は腰の巾と比べてそう大きな差はない。従って、肩幅は後巾よりもやや広い程度が普通である。肩幅が広ければ、自ずと前巾(上半身)も広くなる。

前巾が広いと胸の辺りで布が余り、しっくりこない。袖付けの辺りにヒダができてしまう。洋服では言わば好きなだけ裄丈を伸ばすことが出来、伸ばすことによって身頃に影響することはない。しかし、着物は裄を伸ばすことによって身頃に影響し、着難さの原因ともなるのである。

寸法、特に裄丈の問題について詳細に説明してきたつもりだけれども、細かい数字を羅列してよく判らなかったかもしれない。結論的にまとめると次のようである。

① 着物の裄丈の測り方は洋服とは異なる。

② 構造上、腕を下に降ろせば手首が出てしまう。(これで正しい)

③ 肩幅は後巾とリンクしている為、肩幅を好きなだけ採れるわけではない。

④ 肩幅を規定以上に広くした場合、着物の形が崩れ着心地に影響が出る。

⑤ 通常の身長・体形であれば裄丈は充分に採れる。

以上のような事は、着物の構造や歴史を知るものにとっては充分に理解しているはずである。にも係わらず、異常に裄の長い着物を着ている人が後を絶たない。

初めて着物を着る人、初めて着物を仕立てる人は分からなくても当然である。現代人は洋服に慣れている。洋服の裄丈に慣れている人は、洋服と同じ裄丈を要求してもおかしくはない。しかし、着物を仕立てる呉服屋や仕立屋は分かっているはずである。着物を初めて仕立てるお客様には、着物の仕立てについて説明し着物らしい着物を仕立てる義務がある。

洋服を着たことのない人がスーツを仕立てようとした時、もしも「フォーマルスーツのズボンの丈を膝まで」と言われたら、その仕立屋はその通り仕立てるだろうか。心あるとまで言わなくても、普通の洋服屋であれば、

「お客様、通常スーツの裾はこの位でございます。短めがお好きでしたら、せいぜいこの位がよろしいかと思います。」

そう言って常識的なスーツを仕立てるのではなかろうか。

しかし、現代の呉服屋は、お客様言うままに寸法を仕立てているようである。否、呉服屋自身がとても着物ではありえない寸法をお客様に勧めているのではないかとさえ思える。

私は今日呉服業に携わる人達が既に着物の知識を逸している。

つづく

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