明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅳ ⅴ 日本の染織の将来(その3)

ゆうきくんの言いたい放題

誇りを持って物創りをしているのは染屋も同様だった。

京染の仕事は特化している。友禅染は、さまざまな工程を経て完成する。図案を起こす、下絵を青花の汁で描く、それに沿って糊を入れる(糸目)。色を挿す、糊で伏せる、地染をする、糊を落とす、蒸して色を定着させる、刺繡や金彩を施す、等など。多くの工程がその専門の職人によって行われている。

糸目を入れる工程を見せてもらったことがある。職人が正座した前の机には下絵が施された白生地がある。先に金口の付いた渋紙の袋に糊を入れて、糊を絞り出しながら糸目を置いてゆく。単純な作業にも見えるし、面白そうにも思える。しかし、糸目は、できるだけ細く、均質に、生地にしっかりと置かなければならない。訪問着一枚分の柄に糸目を置くのにどのくらい時間がかかるだろうか。そして、忍耐のいる仕事である。

たくさんの工程の中のたった一つの職人仕事にこれだけの技術と忍耐がいるのだから、友禅染ができるまでにはどれほどの手間と技術を要するのかがうかがい知れる。

ある時、お客様(小売店)から高級品の注文をいただいた。高級な染物を扱っている染屋に出向いて商品を見せてもらった。その染屋は良い染物を扱っているので有名だが、なかなか足を運ぶ機会がない。行儀のよい番頭さんに迎えられ、箪笥から一枚一枚訪問着を広げて見せてくれた。

ちょうど染屋の主人がいて顔を出してくれた。探している品物について話した後、私が山形の呉服屋の息子で修業に来ていることも話すと気さくにいろんな話をしてくれた。主人が番頭に支持して奥から私の要望にあった商品を持ってこさせた。しかし、出された商品は少なかった。主人は私の顔色を見たのか、「もっとあるやろ。隠さんともってきい。」しかし、番頭は「いや、今商品が少なくて。」と答えた。「なんや、あらへんのか、もっとあったやろ。」「いや、先日売れてしまいました。」

主人の見幕に私は申し訳なくなり、「いや、私の場合、必ず売れるかわかりませんので、あるもののなかから借りてゆきます。しかし、そんなに売れるのでしたらご繁盛ですね。」

そう言うと主人は、「品物があらへんと寂しゅうてしょうがあらへん。」その表情は本当に寂しそうだった。染屋の主人にとって、品物は商いの商品である前に、自分が創った作品であり我が子のような存在だったのだろう。

その染屋も既に店を閉めている。技術を持った職人が仕事がなくタクシードライバーをしているという話も聞く。信用情報には、昔私が出入りした染屋織屋、問屋の廃業の知らせが並んでいる。業者の廃業倒産は、その会社の経営上の問題とも言えるが、果たしてそこで技術を磨き、物創りをしていた人たちはいったい何処に行ってしまったのだろう。そして、その技術は受け継がれてゆくのだろうか。

つづく

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