明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅳ ⅴ 日本の染織の将来(その4)

ゆうきくんの言いたい放題

最近、「きものは安くなりましたね。」と言う話をお客様から聞く。特に昔、親に着物を作ってもらった人が久しぶりに娘のために着物を仕立てる、というような人達からそのような話を聞く。「昔、自分が買ってもらった着物よりも安い」という感覚かもしれない。着物は安くなっているのだろうか、それとも昔は高かったのだろうか。

それを論ずるのは複雑で誤解を生じることも覚悟せねばならないが、私は確かに着物は安くなっていると思っている。きものの価格についてお話ししたように、小売価格は小売店が決める事なので、高い店と安い店では値段が数倍違う。消費者が複数の呉服屋で買い物したとすれば、それは実感できないかもしれない。しかし、きものの製造段階では、間違いなく安くなっていると思う。まじめに仕入れをして、当たり前のマージンで価格を決めているまともな呉服屋で買っていれば、昔と今では価格の違いが分るだろう。

しかし、全く同じものと言う意味では、特に手描の友禅や手織の帯では高くなっているかもしれない。高度な手仕事に対する手間賃は上がっているだろうし、希少性も増している。

きものが安くなっているというのには、次のような事情がある

まず、技術革新が進んだことである。手描友禅であれば、型糸目という技法ができて、今まで職人の手技に頼っていた糸目置を型で、いわば一発で入れることができるようになった。型を使えば同じものが大量に安価にできる。ただし、最近は需要が減り、同じものをたくさん生産することがなくなったので、型を造る手間が嵩み、手描き友禅よりも高くつくといった現象も出てきているらしい。

また型友禅に代わって捺染の技術も進歩してきた。さらに最近はインクジェットの技術も進歩して安価な振袖に用いられている。最近、非常に安いセット販売の振袖が売られているが、ほとんどはこのインクジェットで染めている。

全く同じ柄の着物を染める場合、手描きと型糸目では、間違いなく型糸目の方が安く出来る。ましてインクジェットであれば、遥かに安く染めることが可能である。

帯は機械織りが主流となり、コンピューターの進歩とともに、紋紙を使わずプログラムがそれに取って代わっている。昔はジャガードに使う織機では横糸一本につき1枚の紋紙を打たなければ成らなかった。紋紙はグラフ用紙に描かれた柄を見ながら、ピアノのような紋打ち機械を使って職人が一枚一枚造っていた。しかし、コンピューターに取って代わられ、その手間は要らなくなり、コストも大きく下がっている。

また、海外の生産もきものの価格を下げている。最近中国も賃金が上がり昔ほどではなくなってきたが、一頃信じられないような価格の帯が出回っていた。仕入れた帯に当たり前のマージンで値段を付けると、「これは偽物ですか」「これは化繊ですか」「何か分けあり商品ですか」ともいわれかねないような価格だった。更に作りすぎたのかバッタ商品が氾濫し、仕入れる価格が、あっちの問屋、こっちの問屋がばらばらで、安心して仕入れられなくなり、私の店でも中国の帯は仕入れないようにしている。

このように、技術の革新や流通事情によりきものの価格が下がっている、と云う面は否めない。

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