全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅳ ⅶ きものが分かるきもの屋はどれだけいるのか(その2)
さて、そういう意味で今の呉服屋はどれだけきものに関する知識を持っているのだろうか。
全てを知っている呉服屋などいないことは前述した通りである。しかし、最低限消費者の満足を得られる知識を持った呉服屋はどれだけいるのだろうか。私は最近はなはだ疑問に思っている。
展示会にお客様を案内した販売員が「お似合いですよ」「お得ですよ」「安いですよ」の三言しか言えなかったという話を聞く。また、むやみに「人間国宝です」と連発して説明する販売員もいると聞く。そういった商法のお店では、客を勧誘する人、客に販売する人、採寸して仕立てる人など分業であたっているのかもしれない。
しかし、きものの知識のない人がどうやってお客様を勧誘するのだろう。また、どうやって仕立てあがったきものをお客様に収めるのだろう。お客様には好みもあり、既に持っているきもの、また懐具合(いくら位のきものを求めているのか)もある。販売する人は、そのようなお客様の事情を知らずにきものを販売できるのだろうか。
きものの知識が希薄になってしまった現代のお客様に、いかに分かり易く説明してお客様に喜んできものを着ていただくのが呉服屋の使命と思えるのだが、それがないがしろにされているようでならない。
仕立てについても呉服屋の知識がいかばかりか疑問に思うことがよくある。
私の店では、昔の反物であったり、他の店で購入した反物の仕立てや仕立て替え、直しなど何でも承っている。お客様が持ち込むきものの中にはとても呉服屋が採寸して仕立てたものなのか疑問に思うものも多い。
最も多いのは裄丈の長いきものである。裄丈については既に書いているので詳しいことは割愛するが、洋服に慣れたお客様は長い裄丈を要求する場合が多い。仕立てる場合、お客様の好みを聞かなければならないのは当たり前だけれども、裄丈が長くなれば肩幅も長くなる。痩せた人の肩幅が長くなれば着心地にも影響する。むやみに裄丈の長いきものを仕立てる呉服屋は、そのあたりをお客様に十分に理解してもらっているのだろうか。それともその呉服屋は、そこまで気が回らないのだろうか。
先日持ち込まれた着物は身丈が異常に長かった。身丈は人によって異なる。腰ひもの位置によって身丈は変わるので、一概に身長から割り出せるものではないが、女性の場合は身長の長さを身丈の目安としている。しかし、その持ち込まれた着物は身長よりも約10cm長かった。普通に着付ければ腰ひもの位置はずっと上になり、長いお端折りになる。
そのきものの身丈が長いのは、そのお客様の好みかと思い聞いてみると、そのきものは初めて仕立てた着物だという。寸法は呉服屋さんに任せたとの事だった。
「このきものはお客様の身長からすると、ちょっと長いのですが着難くはありませんか。」
そう聞くと、確かに着難いという。そして、着付はその呉服屋で習っているという。そして、
「着付けの先生に着難いと話すと、『それは○○してください』と言って着付けてくれたけれども、どうも変でならない。」
と言うことだった。まともに考えれば、丈の長いきものを無理やり着付けたとしか思えない。販売した呉服屋、着付け師共に同じ店の人である。このような事が呉服業界ではまかり通っているのだろうか。