明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅴ ⅰ 衣替えについて(その2)

ゆうきくんの言いたい放題

さて、「衣替え」の話に戻ろう。「衣替え」はある日を境として一斉に行われる。(事になっている。)「寒くなってきたからそろそろストーブを出そう。」とか、「暑くなったので扇風機を出そう。」と言うのとは異なり、その年の暑さ寒さにかかわりなく「衣替え」は行われる。実用的な意味から考えると合理性に欠けるようにも思われる。

しかし、ある日を境とする、と言う考え方は中国より伝わった節句に由来しているのかもしれない。「そろそろ」とか「大体この辺で」というのではなく、暦の上での節目を大切にする考え方である。ある日一斉に事を成すことで暦の節目を皆が感じられるのである。

その節目というのは、現在きものでは六月一日、七月一日、九月一日、十月一日と言うことになっている。

ではこれらの日がきものにとって節目とされたのはどのような根拠を持っているのだろう。もともとの節句は陰陽五行説に従って合理的?に決められたもので、誰も異論をはさむ余地がない。ではきものの節目はどのようにして決められたのだろうか。またそれは絶対的なものなのだろうか。

江戸時代初期に来日した宣教師ロドリゲス・ツヅによると江戸時代に武士たちは衣替えの時期を次のように定ていたらしい。

「日本人の間では、夏季は五月五日(端午)に始まって、八月最後の日までで、その間は単衣すなわち帷子を着る。秋の初めにあたる九月最初の日から八日まで、袷と呼ばれる裏地をつけただけの衣類を着る。そして、九月九日(重陽)から次の新年の三月の最後の日までの間は詰め物をした衣類を用いる。四月の最初から五月の四日までは袷を着る。」

そして、最後に、

「そしてこれらの儀式はきわめて正確に守られる」

とある。

この記述を見ると、秋の袷の期間が異常に短いように思えるし、今のサイクルとは違っているように見える。

こう言った伝統を今日まで引き継いでいるのであるが、さて昔の衣替えの時期はそのまま現代に引き継がれているのだろうか。答は否である。

江戸時代の暦は太陰暦である。太陰暦と太陽暦は一致しない。同じ日、例えば正月は同じ日ではない。時間差が生じていると言えるが、その時間差は年によって一定ではない。

平成28年1月1日は太陰暦では11月22日であるが、平成27年1月1日は11月11日である。太陰暦の特定の日を太陽暦に比定しようとした場合、必ずしも同じ日にはならない。従って江戸時代の衣替えの日をそのまま現代の太陽暦に当てはめようとした場合、衣替えの日付けが毎年違うことになる。まして閏月のある年はどのように比定したらよいのだろう。

衣替えは暑さ寒さへの対処であるから、暑さ寒さをつかさどる太陽と地球の位置関係で定めようとするならば太陽暦で特定するのは可能である。そうした場合、江戸時代あるいはもっと以前から日本で行われていた衣替えは、暑さ寒さとは関係のない(太陽との位置関係とは関係ない)太陰暦に従った全く不合理であることになる。

しかし、私は日本人が守ってきたしきたりが不合理であるとは思わないし、否定しようとは思わない。そこには「暦の上では」という日本人らしい考えがある。季節の変わり目を「最高気温が何度になったら」とか、「最低気温が何度になったら」また、「初雪が降った日をもって・・・」というような不定の変わり目ではなく、「何月何日をもって・・・」という方が四季のはっきりしている日本ではより生活に季節感を与えるのだろう。

そういう意味では、太陽暦であろうと太陰暦であろうと暦の特定日をもって衣替えすることを私は否定しない。ただし、誰が定めたのかは分からないが、現代の六月一日、七月一日、九月一日、十月一日という衣替えの日付けは昔のそれとは違っているということは間違いない。

更に昔は今と違って季節の衣装は必ずしも三様(袷、単衣、薄物)ではなかった。ロドリゲス・ツヅの記述を見ると年間三種の衣装を着たのは事実だが、それらは、袷、単衣、薄物ではなく、袷、単衣、綿入(詰め物をした衣類)であった。

また、同じポルトガル人宣教師ルイス・フロイスによると、平安以来貴族の装束は年二季即ち二種類しかなく、四月一日から九月末までを夏の装束、十月一日から翌年三月末日までは冬の装束と定められていた。

以上を考察すると、衣替えの時期は時代により変遷があったことは否めないし、その要因として衣装の形態も関係したであろうことは十分に考えられる。しかし、一貫して日本人は暦の上で衣替えをするということを大切にしている。

したがって定められた時期に衣替えしなくてはならないのは日本の伝統と言えるが、さてそれはどれだけ厳格に守られてきたのだろう。また現代、どれだけ守らねばならないのだろうか。

ロドリゲス・ツヅの書いた「そしてこれらの儀式はきわめて正確に守られる」と言う言葉は何を意味するのだろうか。

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