全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅵ-ⅵ 古い着物はどうしたらよいか (着物のメンテナンス) (その10)
【染替の裏技】
若い時に着た着物を持ち込んできて、「これ派手になっちゃったのよ。なんとかならないかしら。」と相談されることがある。訪問着、小紋、紬など、着物であれば何でも歳とともに派手になるのは道理である。その着物に愛着や思い入れがあれば誰でも何とかしたいと思う。
染替については、すでに書いたように無地染め以外は中々難しいところがある。
訪問着の場合、地色を替えようと思えば色留袖以上に手間がかかるし、地色を替えた場合、指定した色に地色を染め替えしたとしても、柄の色との組み合わせがイメージした通りにならない場合がある。
小紋の場合、地色を替えるのはまず難しい。無地染めにしようと思っても柄が邪魔して余程濃い色でなければ染替は困難である。先染めの紬に至っては、色を抜くことはできない。何とも困り果てるのであるが、実は最後の手段がある。
この方法は邪道であり、呉服屋として余りお勧めできないのでお客様の同意を要する。
その方法とは、全体に色を掛けるのである。つまり、派手な着物に色をかけて地味な着物にする。
実際に、どのようにするかと言えば、着物を解いて洗い張りをする。格別シミがあればしみ抜きをする。古いシミのしみ抜きで少々色が抜けたとしても、掛ける色が濃いければあまり問題はない。(本人が気にするかどうかの問題だけれども。)羽縫いした反物に色を掛ける。仕立てて出来上がり。
ここで問題は、どんな色を掛ければどんな色になのかである。この予測は大変難しい。例えば赤い着物にグレーを掛ける。果たしてどんな色になるのか。私も的確に予想はできない。しかし、地味な着物になるのは間違いない。
今までに数人、このような加工をしたが、今のところ皆に喜ばれた。染の紬に色を掛けたり、鮫小紋に色を掛けたりした。
赤い鮫小紋にグレーの染料を掛けたが、白い地色だった鮫小紋がグレーの地色に渋い鮫柄になり、何とも面白い鮫小紋に仕上がり、お客様にも喜んでいただいた。
この方法は、どのような仕上がりになるか分からないというリスクがあり、あくまでも裏技である。私も積極的にお勧めする方法ではないけれども、着物は色々な可能性を秘めているということだけはお伝えしたい。