明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅵ-ⅵ 古い着物はどうしたらよいか (着物のメンテナンス) (その13)

ゆうきくんの言いたい放題

【黒留袖】

黒留袖と言えば、女性のフォーマル着物の最上位である(皇室では黒留袖は着ないので色留袖が一番、と言う説もあるが)。以前は結婚する時に嫁入り道具として黒留袖を仕立てる人が多かった。

黒留袖は親族の結婚式での既婚者の装いである。また仲人(雌仲人)も黒留袖を着る。実際に黒留袖を着るのは、娘や息子、孫の結婚式。若い人であれば兄弟姉妹、従妹の結婚式である。もっとも、どこまでの親族が黒留袖を着るかについては地方により違いがあるらしい。

昔は「嫁入り道具に」、「息子が結婚するので」と仕立てられた黒留袖だが、今黒留袖を仕立てるのをあまり見かけなくなったのには訳がある。

一つは現代の少子化がからんでいる。昔は兄弟が四人、五人というのも珍しくはなかった。しかし、今は子供が一人か二人が普通で、三人、四人というのは稀である。嫁入り道具に黒留袖を仕立てても、着る機会があるかどうか分からない。自分の兄弟が既に結婚していたり、嫁ぎ先には兄弟がいなかったり、姉妹は全員既婚であったりすると黒留袖の出番はない。

また、結婚を取り巻く風習も昔とは変わってきている。仲人を立てない結婚式が多くなり、仲人の黒留袖の出番はなくなっている。結婚披露宴も昔のような厳かなものではなく、よりカジュアルな披露宴が増えてきている。レストランウエディングや中には友人だけで居酒屋で行うこともある。
それでもまだまだホテルや結婚式場での披露宴は多いが、黒留袖を着るのは新郎新婦の母親に限られてきているようにも思われる。私の結婚式の時には、母、姉、叔母(二人)従妹が黒留袖を着ていたが、今は結婚式でもそれ程黒留袖姿は見られない。

さて、すっかり出番を失った感のある黒留袖だけれども、時折黒留袖について相談を受ける。

相談が多いのは季節のTPOに関するものである。6月~9月の結婚式には何を着たらよいかと言う相談である。着物のTPOをそのまま当てはめれば、6月、9月は単衣、7月、8月は絽の留袖と言うことになる。しかし、単衣や絽の留袖を持っている人は少ない。いや、皆無と言っても良いかもしれない。

相談にいらっしゃる方のほとんどは新郎、新婦の母親である。自分の息子や娘の晴の席で間違いがあってはならないという気持ちからだろう。

絽の留袖は最近見かけないけれども作られてはいる。単衣の留袖は八掛をはずして仕立てればよいので、どちらも手に入らないことはない。しかし、「6月でしたら単衣でしょう。」「7月でしたら絽の留袖を着るべきです。」とは私も中々言い難い。

しかし、実際に6月、7月に袷仕立ての留袖を着るのは何とも耐え難い。かと言って、着る機会があるのかないのか分からない着物を仕立てるのももったいない。そのような悩みでお出でになるお客様には、次のようにアドバイスさせてもらっている。

絽の留袖は無理にしても、6月から9月までは、やはり単衣の留袖の方が良い。本人が袷の留袖を持っていても、それを単衣に仕立て替えるのは忍びない。また、袷に仕立て替えなくてはならないかもしれないのだから。

昔は留袖を仕立てる人は多かったので、母親や祖母の黒留袖がタンスの底に眠っている場合が多い。そんな留袖があれば、それを解いて単衣の留袖に仕立て替えるのである。もちろん、解いて洗い張りをして仕立て替えなければならないが、新調するよりはずっと安価に仕上がる。また、母親や祖母の思いの籠ったものであれば結婚式にも最適である。

タンスの底に眠っている黒留袖を生かす方法としてはいかがだろうか。

尚、余りに古くて仕立て替えに耐えられないものは別として、通常解き洗い張り、仕立て替えをして十万円も掛からない。

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