全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅵ-ⅵ 古い着物はどうしたらよいか (着物のメンテナンス) (その17)
古い着物や着なくなった着物の対処法として、ケースバイケースで様々な対応ができる事を述べてきたが、多くのケースとして「呉服屋に相談」と言うキーワードを使ってきた。寸法や技術的なことは消費者には分からないことが多い。是非とも専門的な知識が必要である。
古い着物の加工を呉服屋に相談するのに抵抗がある方もいらっしゃるかもしれない。
消費者にとってみれば、「呉服屋の玄関をくぐろうものなら着物を買わせられてしまう」と言う感覚が身についてしまっているようだ。
これは、呉服屋の私としても大変頭を悩ませる問題である。呉服屋は本来、着物を売る事、仕立てる事、仕立て替えやしみ抜きなどのメンテナンス、そして着物に関する消費者からの萬相談を受ける商売である。それが何故、消費者が敬遠する対象となってしまったのか。業界の人間として恥ずべきことである。私は、もっと着物に関する相談に消費者がやってもらいたいと思っている。
確かにインターネットを開けば、「呉服屋の悪徳商法」なるものがずらりと並んでいる。そこには、呉服屋にどんなひどい目に遭わせられたかの経験が語られている。私にしてみれば、消費者が何故そのような呉服屋に着物を買いに行くのかが不思議でならないのだが、その類の呉服屋の手練手管は消費者の理性を凌駕しているのだろう。
それでは、うかつに呉服屋に近づこうとしない消費者が増えるのもうなづける。古い着物の加工を頼みに行けば高価な着物を買わせられるといったこともあるのだろう。
しかし、である。私は消費者に冷静な対応をお願いしたい。
着物はメンテナンスによって寿命が延び、使い回しができ、他の着物に仕立て替えることもできる。物を徹底的に使い、リサイクルすると言った実に日本的な性質がある。それを存分に感じてこそ着物の本質が分かり、着物の良さが分かるのである。ひいては着物を好きになってもらえる要因がそこにある。
しかし、その目を摘み取っているのが当の呉服業界である。このままでは、「着物は高価で着られなくなったら捨てる他ない。」「また新しい高価な着物を買わせられる。」と言う印象が定着しかねない。
消費者には冷静な目で呉服屋を判断し、メンテナンスの相談を受け付けない又はろくに相談に応じずに新しい着物を売りつけたがるお店は「呉服屋」ではなく「着物売り屋」であることを自覚していただきたい。
全国にはまだまだ本当の呉服屋は多くあると思う。消費者が本当の「呉服屋」に出入りすることにより、呉服業界は淘汰されインターネットに名を連ねる「悪徳商法の呉服屋」はなくなるだろうし、着物をもっと好きになっていただけるはずである。
きもののメンテナンス、どれだけのことができるのかご存じない方も多いと思う。困ったことがあれば是非「呉服屋」の戸を叩いていただきたい。着物の世界はもっと広がり、身近になると思う。