明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅵ-ⅵ 古い着物はどうしたらよいか (着物のメンテナンス) (その6)

ゆうきくんの言いたい放題

【裾直し】
袷の着物の裾は表地と八掛地(裾回し)が裏表になっている。八掛地の方が表地よりもわずかにはみ出している。これは、見た時に表地の裾に八掛地の色が重なって見える視覚的効果もあるが、実は表地を保護する役割を担っている。
着物を着ていると裾が擦れるために、長い間着ていると裾が擦り切れてしまう。しかし、八掛地が出ているので、まず八掛地が擦り切れる。表地が擦り切れないように、八掛は言わば表地を守る防波堤の役割を果たしている。
擦り切れた裾では見栄えが悪いので直さなければならない。完璧に直すには、解いて仕立て替えをする。洗い張りをして、擦り切れた八掛は除いて(ずらして)仕立てる。これで全く元通りになる。ぼかしの八掛の場合、制限はあるが、無地の場合は理論的には八掛がなくなるまで仕立て替えられる。八掛が短くなれば胴裏で補うことにはなるけれども、胴裏が足りなくなれば、見えないところなので剥いで継ぎ足すことができる。
八掛を消耗品として何回でも仕立て替えられる機能が着物には備わっている。日本人の着物を大切に長く着るという思いがここにも見て取れる。
さて、仕立て替えできるとはいえ、裾が擦り切れて仕立て替えするのは大仕事である。現代では普通の人であれば、同じ着物を着るのは年に数回かもしれない。その程度で裾が擦り切れるには数年かかるだろう。擦り切れとともに汚れがついて洗い張りをしなければならない時には、その機会に八掛をずらして仕立てるのも良いだろう。
しかし、しょっちゅう(毎日)来ている人の裾は意外とすぐに切れる。料理屋の女将さんや毎日のように着物を着ているお客様からは私の店にも裾の切れたお直しが頻繁に持ち込まれる。
頻度に関わらず仕立て替えは大変である。手間も大変ではあるが、加工代もばかにならない。洗い張りをして仕立て替えると、私の店では45万円掛かってしまう。余りにも汚れてしまったり、他にも補修すべき箇所が多かったりすれば仕立て替えも良いだろうけれども、汚れが丸洗いで対応できる範囲であれば、その度に仕立て代を支出するのはもったいない話である。

 私の店にいらっしゃる方には、裾が切れた場合次のような提案をさせてもらっている。

 擦り切れた裾を解いて折り込んで閉じる。非常に単純な対処法だが、お客様には喜ばれている。加工代は5,000円足らず。仕立て替えの十分の一である。
ただし問題は、丈が短くなることである。仕立て替えであれば、丈は元のまま指定寸法で仕立て上がるが、この方法では折り込んだ分だけ丈が短くなる。

 折り込みによって短くなる丈は、裾の切れ具合によっても違うが約8分前後である。この方法で裾を直すことによって丈(衿下)1寸弱短くなる。丈が短くなれば当然不都合が生じるが、女性の着物はおはしょりで調整できるので、着られないことはない。丈が1寸短くなった場合、腰紐の位置を5分下にすれば着丈は同じになる。

 私のお客様で度々裾直しをされる方がいる。毎日着物をお召しになるので何度か丸洗いをすると裾が擦り切れてくる。その度に裾直しをするが、同じ着物の裾を二度三度直す。三度裾を直すと3寸近く丈(衿下)が短くなるので、さすがに着難くなるとおっしゃっているが、それでも仕立て替えするよりはずっと安く上がるので重宝していただいている。もちろん三度直してまた裾が切れれば仕立て直しをしていただいている。

 ただし、絵羽物の場合裾に柄があるので柄が切れてしまう場合はこの方法ではできない。

 着物は古来日本人が普段に晴れに着て来たものである。その構造も仕立てや直しも鷹揚にできている。昨今の着物を見る目は、TPOや柄合わせ、仕立て等々実に厳しい目で見られている。いつ何の着物を着るのか、仕立ては正確か、織傷や染難はないか等、それらは日本人の品質に対する厳しい感覚であり、悪いことではない。しかし、着物は実に合理的で鷹揚にできている面があることを忘れさせているようにも思える。

 裾が切れて少々丈の短い着物を着る事に抵抗を感じる人もいるかもしれない。そのような方には仕立て替えをしていただければ、着物は元通りに再生する。しかし、皆がそれに右倣いした場合、「着物のメンテナンスは何と高いのだろう。それは着物を着るなら覚悟しなければならない事」と思ってしまうかもしれない。着物をもっと気軽に来てもらうには、昔から日本人が積み上げてきた着物の鷹揚さをもっと利用していただければ、着物をもっと身近に感じていただけるのだけれども。

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