全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅵ-ⅵ 古い着物はどうしたらよいか (着物のメンテナンス) (その8)
二つ目の理由に、以前できた染替も、着物を取り巻く環境の変化で困難になっている事情がある。技術的には染替が可能でも、コストを考えると実際には踏み切れないケースもある。
その裏には、絹に対する日本人の価値観と絹そのものの価格の変化がある。昔、絹は大変貴重品だった。日本産の絹は、その品質から世界中でもてはやされ日本の主要な輸出品だった。「輸出羽二重」と言う言葉があるように外貨を稼ぐ手段として大量に輸出されたためかどうか、国内でも絹は貴重品だった。「正絹」と言う言葉が「貴重品」と同意義に用いられていたように思う。絹の生地は、わずかな切れ端さえも大切にとって置かれた。
それほど貴重に扱われた絹だけに、仕立てられた着物は、仕立て替えたり染替えたりして大切に扱われた。しかし、絹の価値は下がってきている。若い人の中には「正絹」と言う言葉を知らない人もいるし、その重みを解さない人も多い。その裏には、絹がそれほど貴重に扱われなくなくなってしまった事情がある。
今、日本産の絹は大変な危機に直面している。かつて全国で生産された絹は、今では群馬県と山形県のみになってしまった。それも補助金を受けながら生産してきたが、その補助金も打ち切られてこの先どうなるかは分からないという。補助金なしで生産を続けた場合、価格は三倍にもなるという。高品質を保持し続けてきた日本産の絹は、今でもこれからも貴重品であり続ける。
しかし、一方で中国やブラジル等から外国産の絹が非常に安い価格で入ってきている。当社でもお客様の要望にお応えするために、数種類の胴裏地を用意しているが、外国産の胴裏地は6,000円。標準品で12,000円。純国産品は20,000円以上になるが、この先もっと値上がりするという。
海外の絹は大量に輸入され、アパレル業界でも使われている。シルクのブラウスやシルクのジーンズまでも見かけたこともあるが、それほど高い価格ではない。アパレルだけでなく、シルクのタオルやハンカチなど日常品に使われるようになっている。それは絹が安い価格で流通するようになったからに他ならない。
国産の絹と海外の絹では品質に決定的な差があるといえども、全体としては輸入品が圧倒的に多く、平均的な価格は昔よりもはるかに安くなっている。
絹の話になってしまったが、生地の価格が下がったために、絹に対する意識と扱いが変わってきた。
染替をする場合、洗い張り、しみぬき、ハヌイ、色抜き、染代がかかる。その加工代と新しい白生地を比べてコスト的にどうなるかを考えなくてはならない。もちろん国産の生地で染めたきものであれば、染替えたほうが安くつくけれども、海外の安い白生地であれば、出来合いの色無地との価格差はそれほどなくなってしまう。
お客様に染替を頼まれた時には、そう言ったことを含んでアドバイスしている。やはりお客様には、生地や染替について良く理解していただく必要があると思う。