明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅵ-ⅵ 古い着物はどうしたらよいか (着物のメンテナンス) (その9)

ゆうきくんの言いたい放題

三つ目の事情として、染替をする職人が減っていること、加工代が上がっていることがある。職人の減少は染職人に限ったことではなく、呉服業界全体で言えることだけれども、染替えに従来よりも時間がかかるようになった。白生地を単純に無地染めしてもらう場合でも、従来であればはっきりとした納期があった。しかし、最近は仕事が少ないために注文が貯まらないと仕事をしないという。職人にしてみれば、いつも窯を温めているわけにはいかない。注文が貯まった時点で窯を温めて染めるらしい。一見悠長に見えるけれども、ここにも呉服業界の問題がある。職人の年齢が上がっているために年金を貰いながら片手間の仕事の人が多いと聞く。この先後継者はどうなるのだろうかと心配するのは染職人だけでなく、織職人仕立て職人も同じである。

当社でも染の加工をお願いする業者が少なくなっている。中には職人としての資質が問われるような処も出てきている。それまで無地染、紋入れをお願いする時には、指定の色(色見本)と仕立て上がりの寸法を記載すれば無地の紋付を染めてくれた。ところが、ある加工先では、「紋をどこに入れたらよいのか指定してください。」と言ってくるようになった。プロであれば寸法が分かれば紋の位置はわかるはずなのだが、どうなっているのだろう。それ以来、その加工屋には頼まず昔取引があった加工屋に頼んで何とか加工先を確保した。

ただの無地染、染め替えならばまだ十分に対応できるが、複雑な染替になると果たして受けて良いものかどうか心配になってくる。

二十年位前に色留袖の染替を頼まれたことがあった。色留袖の地色を染め替えるのである。色留袖は裾に模様がある。地色を染め替える時には、模様の部分を糊伏せして地色を染め替える。非常に手間と技が必要な加工である。当時は受けてくれる加工屋があったのでお願いして染替ができた。お客様にも喜んでいただいた。当時としても加工代は10万円以上かかったと思う。しかし、今同じような注文を頂いた場合どうだろうか。まず請け負ってくれるところがあるかどうか。技術的には可能なことなので探せば何とかなるだろうと思う。さて加工代はいくらになるかと言えば、即答できない。お客様に注文を受ければ、すぐに価格の見積もりをしなくてはならないのだけれども、まことに難しくなったものである。

 染替は昔に比べてやりにくくなったことは確かである。しかし、大切な着物、思い入れのある着物であれば遠慮なく呉服屋に相談していただきたい。必ずしも満足できる回答ができるかどうか分からないが、呉服屋の使命としていくつかの選択肢は用意できるはずである。実際に染替するかどうかはそれから決めればよいのである。

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