全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-ⅷ 呉服屋がなくなる時(その3)
着物の需要の減少とは逆に呉服屋が店を閉めなければならなくなる原因に、着物の生産の減少がある。簡単に言えば、呉服屋は続けていても売るべき商品がなくなってしまう、と言うことである。
織屋や染屋、その他メーカーが次々に倒産や廃業で店を閉め、商品の供給事情は変化している。需要の減少に伴ってメーカーの数が減っているので、需要に対する供給の量に問題はないのかもしれないが、問題はその中身である。
最近欲しいと思う商品が入りにくくなってきた。「欲しい」と言うのは、在庫に欠けている商品や、お客様から注文を受けた商品である。色や柄、年代、また染や織の良し悪し、価格等お眼鏡に叶う商品は中々見つからない。
昔は仕入れに行って2~3軒の問屋をまわれば欲しい商品が手に入った。お客様から注文があり在庫に無ければ、やはり2~3軒の問屋に電話をすれば適切な商品が数反入手することもできた。
お客様からの注文は、「客注」と言って、売れる確率が高いので問屋さんは一生懸命に商品を探して送ってくれたものだが、最近は商品がなくあきらめる場合も多い。
「松の柄で色の濃い訪問着。年頃は40歳位。柄は大胆なもの。」
と注文しても、まず松の柄そのものが少ない。ようやく見つけてくれた訪問着を三枚送ってきたがいずれもイメージとは違う。
「もっと松が大胆に描かれたものを。」
と再度お願いすると、
「いや、うちはもうそれ以上松の柄は探せません。」と断られてしまう。
お客様の注文なので何とか探したいと思うのだけれども結局期待に添えないこともある。必死になって探そうと、数件の問屋に問い合わせて返事を待っていると、
「その注文、他の問屋さんにもしていなかったですか。」
という返事が返ってくることがある。それぞれの問屋さんは一生懸命に私の注文品を探してくれているのだけれども、行き着く先は同じ染屋や織屋になるらしい。染屋や織屋に複数の問屋から同じ問い合わせが入り、上記のような返事になってしまう。
染屋や織屋はまだまだ沢山あるけれども、特定の柄や色、価格の商品となるとどこの問屋でも同じメーカーをあてにせざるを得ないのである。
これは困った事ではあるけれども、業界が縮小し、流通する商品が減り、問屋やメーカーの数が減った結果であり、致し方ないかもしれない。
希望する柄の着物が少なくなった。思った色の着物の数が減った。といったように着物を選ぶ選択肢が減ったことは残念だと言え、着物がなくなったわけではないし、着物を着られなくなったわけでもない。呉服屋としては商売がし辛くなったとは言え、呉服屋が店を閉めるという原因とはならない。
しかし、業界の縮小には別な角度から呉服店を閉店に追い込む要素がはらんでいる。
つづく