全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
ⅴ-ⅲ 良いきものの証(その12)
私も還暦を迎えて少々ボケてきたかもしれない。このブログの構想はいつも寝ながら考えている。次は何を書こうかと寝るときに布団の中で考え、翌朝目が覚めると起き上がるまでに再度内容を吟味している。日中店でそれらを文章にまとめているのだが、最近構想の段階で「あれを書こう、これを書こう」と思ったことが抜けてしまうようになった。
私は小説家でも文筆家でもないので、それほど時間を掛けて書いているわけではないのでしょうがないとも思うけれども、やはり自分の考えはなるべく詳しく伝えたいと思う。
さて、「証紙」に関して書き漏らしたことは紬の証紙についてである。西陣や博多の帯の証紙に気を取られて、うっかり紬の証紙について書き漏らしてしまった。
紬の反物には、端に証紙や紬の名前が書いてある紙(ラベル)が貼ってある。「本場結城紬」「大島紬」「黄八丈」等々。貼ってある紙が全て証紙ではない。証紙と言えるものは、特定の機関が認定したもので、広く知られているし、分からなければ少し調べてみればすぐにわかる。本場結城の証紙、大島紬では鹿児島産は旗印、大島産は地球印というのは有名である。
それらは厳密な検査を受けた物のみに添付が許され、「合格」の検印や検査済みのパンチングの穴が開けられているものもある。
それぞれの証紙の意味についてはここで省くが、証紙とともに貼ってあるラベルがある。それらのラベルも証紙と対になって貼ってある。すなわち証紙と共に貼られるラベルは証紙を許された反物のみに貼られている。そういう意味では証紙と同じ意味があるかもしれない。そして、それらのラベルは証紙よりもより具体的で目立つものが多い。
本場結城紬では証紙の他に機を織る娘が描かれたラベルが貼られている。長年見ていると、そのラベルを見ただけで「結城紬」を連想してしまう。しかし、そのラベルと似たようなラベルが多く創られている。
結城地方ではその近隣地区も含めて数多くの紬が作られている。その中で「本場結城」の名を冠して証紙が貼られるのはごく一部である。本場結城は、いざり機で織られるが、他の紬は高機と呼ばれる織機でおられる。そして、それらの紬も「結城紬」のラベルが貼られている。よく見れば本場結城とは違うがよく似ている。
産地でそのようなラベルを創るのは、決して悪意からではないと思う。同じ結城地方の紬としてイメージを共有するためのものだろう。しかし、問題はそれを受け取る側またはそのラベルを説明する側にある。消費者が誤って判断しないことに越したことはないが、それを説明する側に問題が生じる恐れがある。
「結城紬は高価ですばらしい。」と思っている消費者に「これは結城紬です。」と説明したらどう受け取るだろうか。本場結城紬と高機の結城紬、石毛結城との違いをはっきりと説明することなく「結城紬です。」と説明したら消費者は誤った解釈をする可能性は大きい。
説明不足だけであればまだ良いが、悪意をもって「結城紬です。」と販売員が切り出せば、大変なことになるのは必定である。また、結城紬に対する知識の十分でない販売員であれば、悪意はなくても結果的に同じことになるのも考えられる。結城紬の場合、紛らわしいラベルであることは間違いない。そういう消費者にとって紛らわしいラベルについても販売する側でははっきりと説明する責任がある。