全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
ⅴ-ⅲ 良いきものの証(その3)
③作家物
「これは作家物です。」
こう言った商品説明を受けた経験はないだろうか。そんな時は、その商品に対してどのような印象を抱くだろうか。「この商品は高価だな。」と思うかもしれない。
「作家物」とは、「作家が創ったもの」の意である。では「作家」とは何だろう。
「作家」とは、その作品を作った人である。染織の世界のみならず、芸術や文学の世界でも使われる。その作品を創った人が特定できる場合、その人がその作品の作家である。
きものの場合、「作家物」と言っても、作家一人で作品を仕上げるというのは稀である。
加賀友禅は協会に加盟している作者は全て加賀友禅作家とされている。加賀友禅作家は、図柄を創作し、糸目を入れ、指し色を考える。ほぼ作家のオリジナルであるが、弟子やその他専門職の手を借りている。それでも、加賀友禅作家は作家としての地位を得ている。
江戸小紋には作家物もある。しかし、伊勢型紙を彫る作家、型染作家両方の手を借りている。染織においては、絵画のように作家本人全く一人で仕上げるのとは少々違うかもしれない。
きものの世界では、この「作家」が頻繁に使われる。冒頭に記したように「これは作家物です。」と言う様に。
きものの世界では何故それ程「作家」という言葉が飛び交うのだろうか。
私もお客様に、「これは作家物です。」と説明することがある。その言葉の裏には、「この商品は高価です。」「この商品が高価なのは・・・。」と言う意味があるのは否めない。
私が「作家物」と説明する商品は、私が「作家物」として認められる商品のみである。私の「作家物」の尺度はどの程度のものか、その保証の限りはないが、私が常日頃商品を仕入れ、問屋にその商品の説明を受け、その商品が明らかにその作家の手になるものであり、作品として秀でていると思われるものである。
「私が、作家物である、と思う商品以外は作家物ではない。」などと大仰に言うつもりは全くないけれども、「作家物」の範疇はどこかで線を引かなければ大変なことになってしまう。
きものの世界では「作家物」が氾濫している。その結果、「これは作家物です。」の乱発となるのである。
私が、「これは作家物です。」と説明する場合は、少なくともどのような作家であるかも説明している。説明できなければ、「これは作家物です。」とお客様に説明することはできない。
問屋から「これは○○先生の作品です。」と言われて仕入れたとしても、自分が納得できなければ作家物としてお客様に勧めることはできない。
ある有名な作家の作品とされているものが、問屋に山積みされている。果たしてそれ程の数の作品をその作家は創れるのだろうか。
きものの業界で「作家物」が氾濫していることは確かである。小売店は「作家」の意味をよく理解し、消費者への説明責任があるが、実際にはそうは行っていないのが現実である。いや、むしろ作家はどうでもよく、「これは作家物です。」の一言で消費者を惑わせようとしているように思える。
「これは作家物です。」の説明を受けた時には、その作家がどのような作家で、どのような作品を創っているのか、詳しく説明を受け、自分が作家として評価できるのかどうかを考えてみる必要がある。もっとも、その前に、その商品が作家物であろうとなかろうと、自分が好きな商品(着たいと思うきものなのかどうか)の判断が大切である。