明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

ⅴ-ⅲ 良いきものの証(その4)

ゆうきくんの言いたい放題

➃ 落款

きもの、特に留袖や訪問着などの絵羽物では、落款が消費者の目を曇らせる一因となることがある。

落款(落成款識)は、その作品の作者が署名をする意味がある。作者が責任をもって作品を創ったことを意味している。作家物と呼ばれるきものにはほとんどこの落款が押されている。きものの場合には下前のおくみ。染帯の場合は垂れ裏に押されていることが多い。

書画ではこの落款は原初の意味を越えて美的価値を高める役割もしている。白い紙に黒い墨で書かれた書画の片隅に陽刻と陰刻の二つの朱印落款が押されることによって作品はより引き立つ。書画の作品では、大家の作品ならずとも本気で趣味としている素人作品にも落款が押され、作品の一部ともなっている。

しかし、染織の世界で落款は、作品の一部ではなく、むしろ目立たないところに押されている。きものでは人目に触れない下前のおくみに押されている。染帯の場合は、垂裏に押されている場合が多いけれども、帯の場合仕立て方によっては垂に出すこともできる。落款を垂に出してほしいと言う人もいるが、人の目につく場所に落款を出すのはどうも抵抗を感じる。

きもの、染織の世界で落款は、あくまでも作者証明の為に押されるものであり、書画のような作品の一部とは成り得ない。

加賀友禅は全て登録された加賀友禅作家の作品で必ず落款が押されている。私が仕入れする場合は、落款を見て、「ああ、やはり○○さんの作品ですか。」と作者を確認する目安となるが、作品そのものに影響するわけではない。

しかし、その落款がすばらしい価値があるかのように流布されている帰来がある。

「この作品は○○先生のものです。」と説明する為ならよいが、「これは落款入りです。」と、落款が押してあるきものは高価であるかのような説明である。絵羽物(留袖や訪問着)に落款を押したものが多い。作家の落款が押してあるのが本当なのだが、中には作家の落款ではないものもある。作家の落款でないものは落款とは言えないのだけれども、落款のような朱印が押してある。聞いてみると、染屋や工房の印である。

染屋や工房が落款?を押すことは問題はない。むしろ染屋や工房が作品の出所を明らかにするものとして責任を明確にする意味がある。それだけなら良いのだけれども、落款の押されたきものは消費者がありがたがるといった背景はないのだろうか。いや、消費者がありがたがるのではなく、売り手が消費者をありがたがらせる道具となってはいないのだろうか。

きものの価値は落款にあるのではない。落款は出自をあきらかにするものであって、きものの本当の価値はその作品そのものである。きものを購入する場合、落款があるかないかではなく、そのきものが自分にとって価格に見合う価値あるものなのかどうか、それだけである。

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