全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
ⅴ-ⅲ 良いきものの証(その5)
⑤ 生地
きものを選ぶ際に生地の良し悪しは大切である。「良い生地を使っています。」とか、「生地がしっかりしています。」と言う売り口上も聞かれる。
留袖や訪問着、小紋、襦袢また紬、帯も生地には変わりないが、一般に生地の良し悪しが云々されるのは縮緬や羽二重である。紬を手に取って「この生地は良いです。」というのは余り聞かない。その場合は、「これは良い織物です。」とか、「良い紬です。」と言われる。帯も同じである。そういう訳で、ここでは「生地」とは縮緬や羽二重地の事として話を進める。
縮緬地や羽二重地には良い生地(高価な生地)もそうでない生地もある。商品に良し悪しがあるのは他のどのような商品とも同じである。
昔は生地の良し悪しの尺度は量目(重さ)であった。もちろん糸の質等他の要素もあったかもしれないが、絹が貴重品の時代にはどれだけの絹糸が使われているか、すなわち重さがいくらあるかが生地の尺度であった。
縮緬地の量目は「貫六」「貫八」等と呼ばれている。「貫六」というのは十反で1貫600匁、メートル法で言えば6kg、一反あたり600gの意味である。「貫八」は一反675gで「貫六」よりも重い。更に重い生地では「二貫四百」(一反900g)も織られている。
昔は重さを尺度としたために、糊で増量することも行われたという。昔仕立てた着物を広げると、裏地の羽二重に茶色のシミが全体に付いているものがある。これは、今ほど精錬を徹底して行わなかったためである。糊を完全に落とせば同じ生地でも軽くなり、生地の評価が下がったためである。
このように、昔は「これは良い生地です。」というのは、「重い反物です。」とほぼ同義語であった。ここで言う「昔」とは昭和40年頃までと思う。
さて、現代は昔ほど絹は貴重品ではなくなった。「輸出羽二重」と言う言葉が残っているように、絹は当時の日本の輸出花形品の一つとして生産されていた。高価な絹は外貨を稼ぐ貴重な商品だった。しかし、現在絹を生産(蚕を飼っている)しているのは、山形と群馬のみである。(少量生産しているところは他にもあるが。)数少ないそれらの産地も補助金でようやく成り立っている。それも間もなく補助金が打ち切られて国産の絹は姿を消す運命にあると言う。
現在絹は量的には圧倒的に輸入品が多い。中国やブラジルである。価格的に国産品はとても太刀打ちできない。輸入品の胴裏羽二重地は私の店で6,000円である。(十分使用に耐えうるもので、更に安い商品も流通していると思う。)一方純国産の胴裏となると20,000円を下らない。それもこれからはもっと値上がりするという。
量的に十分に絹が供給される今日、昔の様な薄い(量目の少ない)生地は作られなくなった。昔の着物みると、透けて見えそうな表生地も時には見られるけれども、現在そのような生地は見かけない。通常貫六から二貫二百位まであるけれども、いずれも十分に使用に耐えるものである。そして、糊を増量するという話は全く聞かないし、そのような生地にはお目にかからない。
現在の生地の良し悪しは量目だけでは計れない。
つづく