明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ.きものつれづれ 43.これからの呉服屋に求められるもの(その6)

ゆうきくんの言いたい放題

「これ、いくらで売っていると思う。〇〇万円で売っているんだよ。」
その小紋は捺染(プリント)の小紋だった。インクジェットプリントの技術がない当時、捺染は最も安価な染色法である。その小紋を手描きの小紋並みの価格で売っていると言う。

 商売としては実にみごとである。非常に利幅の大きな商品を大量に売りさばく。そして、浮き貸し制度を利用して在庫のリスクはない。更に、全てローン決済をしていたので代金回収のリスクもない。

 その会社はとても儲かっていた。社長は大型の外車に乗って来社していた。その社長を迎える問屋の幹部が接待する時には、常に超一流の店だった。

 多くの利益を揚げるその社長は、事業の成功者と言えるかもしれない。実際、同じような販売をする呉服屋が次々と現れていた。そして、業界自体がそれを応援しているかのように見えた。それは今でも続いている。

 私がいた問屋の幹部社員もその会社を褒めたたえ、私にもそのような呉服屋になるよう暗に勧められたこともある。

 しかし、事業としての成功?(金儲け?)と呉服屋の役割は違うのではないかと言う疑念を私は持っていた。

 商売に限らず人の生業は何を目的としているのだろう。

 人が働くのは、収入を得て生活する為である。それは間違いない。しかし、「仕事をする」と言うのはそれだけの為だけだろうか。私の周りにも「立派に仕事をしているな」と思える人達は沢山いる。しかし、その人達は、必ずしも儲かっている金持ちばかりではない。商売をしている人であれば、物やサービスを商ってお客様に喜んでもらっている。勤め人や公務員でも、世の中に役立つ仕事をしていると思われる人達である。

 最近イタ飯屋(イタリア料理屋)が以上に多くなっている。イタ飯屋に限らず、和食の小料理屋やラーメン屋等の飲食店が次々に出来ている。それを開業している人達は、腕に覚えのある料理人である。彼らにとって独立して開業するのは夢なのだろう。

 しかし、それらの店の事情を聴くと、必ずしも台所事情が良くないところも多く閉店を余儀なくされる店もある。それでも彼らは、自分の料理をお客様に提供して喜んでもらいたい気持ちで始めるのだろう。

 そこそこの腕を持った料理人であれば、収入の為だけであればホテルや料亭に努めた方が良いだろう。しかし、彼らを突き動かすのは、収入(金)だけではなく料理人としての誇りと自分の料理を社会に提供したいと言う気持ちなのだろう。

 その業界のプロと呼ばれる人達は少なからずそう言った気持ちで仕事をしている。

 そば屋さんは美味しいそばを、ケーキ屋さんは美味しいケーキを、魚屋さんは新鮮な美味しい魚をお客様に提供する事を誇りとしているだろう。建設業であれば、より住みやすい住宅を建て、結婚式場であれば二人の思い出となる結婚式を演出する。その主役はお客様であり、お客様が本当に喜ぶ商品、サービスを提供する事である。

 勤め人や公務員の中でも仕事に誇りを持ち、「あなた公務員なのにそこまでやるの。」と思わず賛辞を送りたくなる人もいる。

 それらが生業の目的、役割だと思えるのだが、呉服業界の役割とは、これからの呉服屋が担う役割とは何だろうか。

つづく

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