全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ.きものつれづれ 43.これからの呉服屋に求められるもの(その8)
小学校の時(中学だったかもしれない)先生に、
「仕事と言うのは必ず人の役に立つものです。」
と教えられたことがある。仕事をするのは生活の糧を得るためだけれども、その仕事は人や社会の為になる事だと言う。簡単な話、泥棒がいくら稼いでもそれは仕事とは言わない。なぜなら泥棒は人の為にならない、社会の為にならないから。
そういう意味で呉服屋のこれからの役割、仕事は人や社会の為にならなくてはならない。
昭和30年代までは多くの人が着物を求めていた。その多くの人に沢山の着物を供給する事が当時の呉服屋のお役割だったかもしれない。
しかし、今日の状況を見れば、着物を求めている人は当時に比べれば激減している。着物を買う人の多くは、自発的購買に寄らない人達である。その人達は、今後一部の呉服屋の甘言には辟易して着物から離れていく人も多いに違いない。展示会の誘いには乗らず、呉服屋には近寄らない、と言う風に。
それでも、本当に呉服を求めている人達は必ずいる。その人達の為になることがこれからの呉服屋の役割を暗示していると思う。では、その人達は呉服屋に何を求めているのか、その人達の為に呉服屋はどのように応えたらよいのだろうか。
本当に呉服を求めている人と言っても段階的に様々な人達がいる。既に着物の事を知り尽くしている人、今着物を着てもっと着物の事を知りたいと思っている人。着物の事は分からないが、これから着物を着たいと思っている人などである。
呉服屋は、もちろんそれらのどんな人にでも対応しなければならない。必要なのは、誰にでもお客様が必要としている十分な知識とサービス、良い商品を提供する事である。
着物を欲しいと思っているお客様には、価格的にも品質的にも適切な商品を。着物の知識を欲しているお客様には、売る為の方便ではなく本当の知識を。当たり前のようだけれども現在の呉服業界ではこれすらなされていない。
お客様の身になって一緒に着物の事を考える姿勢が必要である。
「着物の仕立て替えを頼みに行くと嫌な顔をされるので」
と私の店に仕立て替えを頼みに来る客も多い。
「着物を洗ってもらえますか」
と行き場を失った人がやって来る。
本来の呉服屋の役割は、どこで果たされているのだろうかと思ってしまう。
具体的にどのような事が呉服屋に求められるのか。
良い品を安く消費者に提供する。・・・呉服屋が真剣に仕入れ買取をすればできる事である。
着物を着る、仕立てるのに必要な商品を提供する。・・・着物を着る人の立場に立てば、メンテナンスや着付けに必要な物は、少額であっても、頻繁に売れない物でも揃えるのが呉服屋である。
お客様の必要とする知識の提供。・・・まともな呉服屋であれば備わっているはずである。
着物に関するよろず相談。・・・着物が一般的でなくなっているだけに、着物に関して相談できるのは呉服屋であり、それに応えなければならない。
これからの呉服屋の役割は、まだまだある。しかし、それらの事は何の事はない、昔から呉服屋が行ってきたことである。昔、着物を着る人が呉服屋に求めていた事、それこそがこれからの呉服屋に求められる役割である。
「これからの呉服屋に求められるもの」などと大仰な題目で書いてきたけれども、そう書かざるを得ないのは、何時の頃からか呉服業界がねじ曲がった方向に行ってしまっていた証左なのだろう。