全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ.きものつれづれ 44.呉服マクロ経済学(その2)
その問屋さんは、小売屋さんから預かった商品をたくさん積んで小売店を周っていた。事の次第は次の通りである。
最近、商売をやめる小売屋(呉服屋)が多いと言う。商売をやめる、と言ってもいろんなケースがある。資金が回らなくなり商品代金を払えなくなる、いわゆる倒産も多い。
一方で、経営者の高齢化で商売をやめる、後継者がいないので店を畳むケースも多い。経営者は若くても売り上げが不振で商売をやめるケースもある。この場合、店を畳む際資金が必要で、倒産には至らなくても苦労する場合が多い。しかし、小売屋の中には余裕をもって店を畳むケースもある。
今回のケースは、その問屋さんは店を畳んだ小売屋さんの在庫処分を頼まれたと言う。小売屋は少なからず在庫を持っている。店を畳むからと言って、それらの在庫をすぐ現金化できる訳ではない。
閉店セールをして抱えている在庫を安値で売って現金化する場合は多いけれども、在庫を全て処分できない。また余裕のある小売屋は閉店セールそのものが面倒でしないケースもあるかもしれない。どちらにしても閉店した後、在庫商品が手元に残る。
その問屋さんに事情を聞くと、
「小売屋さんが商売をやめるので、在庫商品を預かって周っているんです。」
「その小売屋さん、借金はなかったんですか。そんなに在庫を持っているのでしたら借金も多いでしょう。」
「ええ、そこの主人は株で儲けて金には困っていないんです。商品が売れたら、その分を持って行くんです。小遣いにするんでしょう。」
円満に店を閉めた小売屋には在庫が残る。商売をやめたのだから商品は残ったままになる。それで問屋に頼んで商品を処分してもらう、と言う構図である。
在庫は安値で(仕入れた価格よりも安価に)問屋に貸して、いくらかでも現金化する。売れた分だけ現金を手にするわけである。
店を閉めるのに苦労している小売屋がある一方で、そう言った小売屋も結構あると言う。倒産にしろ閉店にしろ、小売屋が確実に減っている様に思える。
一昔前、呉服の需要が減り続け問屋が次々に倒産して行った。その時は、私の店の問屋の住所録も次々と黒く塗りつぶされていった。
しかし、そんな状況でも小売屋の倒産、閉店はあまり聞かなかった。「少し小売屋が減れば良いのに」とも思っていたが、巷の呉服屋が商売を閉める話は聞こえてこなかった。
しかし、最近になって呉服屋の閉店、倒産の話を聞くようになった。
「小売屋がもっと少なく成れば呉服の商売、もっと楽になるかな。」
と冗談を言った。もっとも、他の呉服屋が店を閉めたからと言って、その店の売上が私の店に周ってくると言う事はない。それは十分に経験している。問屋さんにそう言うと、
「いや、まだまだ呉服屋さんはありますよ。」
それに対して、私はまた冗談のつもりで言った。
「どうせならナショナルチェーンや大手が皆なくなれば業界もすっきりするんじゃないですか。」
つづく