明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ.きものつれづれ 44.呉服マクロ経済学(その3)

ゆうきくんの言いたい放題

 いくら他店の閉店が自店の売上に貢献しないと言っても、ナショナルチェーンや大手が無くなれば、大口の供給元がなくなり、さすがに既存の小売屋の売上も少しは上がるだろうとも思えるのだが、問屋の口から出た言葉は、
「産地が困るでしょうね。」
冗談の会話のつもりで言ったのだが、これは意味深で考えさせられるものがあった。

 一昨年の大手和装小売業者の和装売上は、1位204億円、2位113億円、3位86億円である。かつてはトップが500億円を超えていたことを考えると大きく衰退しているが、それでも1位は200億円を超えている。更に10位までを累計すると877億円にもなる。20位まで累計すれば、1,236億円である。

 呉服業界全体の売上は、3,000億円を切ったと言われている。仮に2,800億円としても20位までの呉服屋で44%を売っている事になる。2,500億円を切ったとすると50%、すなわち半分が大手呉服屋20件で売っていることになる。

 大手に限らず、呉服店の閉店によって業界の売上の50%が失われたとしたらどういう事になるのだろう。問屋さんの言う、「産地が困るでしょうね。」は意味深である。
呉服店の閉店によって失われた50%の売上が、そのまま既存店の売上に上乗せなるのであれば問題はない。むしろ、頑張って生き残りを図った小売店の努力が報われたと考えられるかもしれない。

 しかし、現実にはそうは行かないのがこの業界である。街に三軒あった魚屋さんが二軒に減るのとはわけが違うのである。

 私の店のような零細呉服屋から見れば、大手呉服屋の閉店は、「ああ、あの店も閉めたのか。」位にしか感じない。しかし、業界全体、もっと大きな(マクロな)目で見れば、50%の売上の減は大激震を引き起こす。

 50%売上減は、市場の製品が、それまでの半分で良い事を意味する。すなわちメーカーが創る製品はそれまでの半分しか売れなくなる。生産規模を半分にせざるを得なくなるのである。

 商品が現在回っている半分の量になっても我々零細呉服屋はまだまだ生きる道があるかもしれない。しかし、メーカーの立場に立てば、どのくらいのメーカーが生き残れるのだろう。それはメーカーの性格にもよるけれども、ナショナルチェーンに頼り切っているメーカーもある。

 特定のナショナルチェーン用の商品を創っているメーカーは直撃される。それに頼り切っているメーカーであれば即連鎖倒産するかもしれない。

 どのメーカーも生産を平均50%減らすことを余儀なくされる。平均50%と言っても、メーカーによっては80%のところもあるだろうし、20%で済むところもあるだろう。

 普通の会社であれば80%減では持ちこたえられないだろう。それでも経費を削減し、リストラを行い必死の努力で生き残るメーカーも少なくないかもしれない。

 しかし、こと零細企業にとっては間違いなく廃業に追い込まれる。一人あるいは家族でやっている織屋であれば、経費の削減をする術もなく50%の売上減は廃業に繋がるだろう。

つづく

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