明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ.きものつれづれ 44.呉服マクロ経済学(その4)

ゆうきくんの言いたい放題

 生産の半減は、業界を淘汰して、落ち着くところに落ち着くと言う考えもあるかもしれない。残った半分の需要を半分のメーカーで支えていくと言う具合に。

 10軒の魚屋がある街の人口が半分になってしまえば、5軒の魚屋が閉店し、残った5軒の魚屋が今まで通りに商いをする事ができるかもしれない。しかし、現在の呉服業界では、そうは行かなくなっている。

 2兆円あった呉服業界の規模が1兆円に縮小した時、1兆円の売り上げを失いながらも業界を維持してきた。更に5千億円に縮小した時も崩壊する事もなく呉服業界は存在し続けた。私のような零細呉服屋でも、規模の縮小、経費の節減等で売上が減っても商いを続けて来た。しかし、これ以上業界が縮めばどのような事になるのか。

 売上の半減が押しなべて業界の全てに課すことができるのであれば、単に業界の縮小に留まるかもしれない。しかし、一口に呉服業界と言っても、様々な職種、生業がある。着物の生産過程を見ても、養蚕、製糸、製織、精錬、染織その他多くの人達がそれぞれの職種で関わっている。

 例えば、手織りの帯を織る場合、織機が必要である。そのメンテナンスも必要だし、横糸を通す杼が必要である。この杼を造る人がいなくなっていると言う話を聞いたことがある。売っている店は一軒しかないとも。

 帯の生産量は昔に比べて激減だけれども、織機の自動化も進み、杼を飛ばして織る手織りはそれ以上に少なくなっている。仮に、杼を造る店が一軒しかなかったとすると、生産の半減は、その店にどのように影響するだろう。コツコツと家族で杼を造っているのであれば、リストラや経費節減と言う選択肢もなく、間違いなく廃業に追い込まれるだろう。

 私の店で扱っている男物の胴裏に使う上質の正花は、メーカーでは20,000反がロットだと言う。綿生地問屋は一色20,000反発注しなければメーカーでは採算がとれない。5色であれば100,000反、10色であれば、200,000反である。さて、10色そろえた場合(実際にカタログには10色ある。)、全部売れるのにどのくらいかかるだろうか。

 かつて男性も多くの人が着物を着ていた時代には、飛ぶように売れたかもしれない。その時には、色が切れる前に20,000反を発注していただろう。しかし、今はそんなに売れはしない。15年位前に問屋に聞いたところ、

「売れる色でも年間2,500反位ですね。」
と言っていた。15年前に比べれば、現在の需要は五分の一程度かもしれない。五分の一であれば、年間500反余り。20,000反を売りさばくには40年掛かる計算になる。

 現在、そのメーカーそしてその問屋がどのような生産体制、在庫管理をしているかは分からない。注文すれば、まだ商品を送って来るので、何らかの形で生産は続けているのか、あるいは在庫を売り続けているのだろう。しかし、大手の小売屋が次々と倒産、廃業して需要が半分になればとても続けてはいけないだろう。最悪の場合、正花の胴裏は市場から消える事になる。

つづく

着物のことならなんでもお問い合わせください。

line

TEL.023-623-0466

営業時間/10:00~19:00 定休日/第2、第4木曜日

メールでのお問い合わせはこちら