全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-37 またまた呉服業界の危機(羽二重がなくなる)(その3)
呉服の市場はここ三十年間確実に縮小してきた。市場の縮小と共に呉服の生産も縮小している。業界が縮小した場合、我々小売屋はどのように対応すればよいのか。
業界の縮小と共に小売屋は淘汰され店を閉める者もいる。そうして縮小したなりの均衡した市場になる・・・とすれば、そう大きな問題でもないかもしれない。
消費者や市場が小売屋を取捨選択し、いわゆる「見えざる神の手」によって呉服業界は縮小安定するかもしれない。しかし、それでは済まず、呉服業界が一瞬にして崩壊するかもしれないリスクを含んでいる。
呉服の生産が縮小すれば生産現場では、白生地、染呉服、帯地、その他呉服に関するあらゆるアイテムの商品の生産が減少する。あらゆるアイテムの商品が均等に減少するのであれば均衡縮小となるかもしれない。しかし、呉服業界の縮小は限界点に近づき、特定のアイテムが消滅する危機に陥っている。
例えば、あるアイテムが元々10万反製造されていたとする。需要の減少に伴い5万反になるとどうなるのか。メーカーでは売上の激減で続けられないメーカーも出てくる。市場に淘汰されながらメーカーの数が減り、残ったメーカーは継続して生産する。
更に需要が減少し1万反になった時、更にメーカーは淘汰されたったの2~3社しか生き残れなくなるかもしれない。そして、3,000反に減少した時、1社しか残れない、それも何とか生産を続けている、と言う状態に陥る。あるアイテムを生産するメーカーが1社になった時、最後まで残った独占メーカーと言う輝かしい称号が得られるかもしれないが、その実そのメーカーは大変な苦労を強いられる。
そのような状況は既に呉服業界では現出している。生産反数が往時の1/100などと言う事があるのか、と思われるかもしれないが、次のようなデータがある。
本場奄美大島紬の生産反数は昭和47年に297,628反。平成30年には3,862反である。55年で1.3%にまで減少している。実に98.7%の減少である。また、丹後ちりめんは昭和48年に919万反だったが、平成26年には40万反と約4%にまで減少している。
さて、話を戻すと1社で3,000反生産していた物が更に減り1,000反、500反となったらどうなるだろう。如何に独占企業と言えども生産に要する固定経費すらも賄えない状態となる。
羽二重が無くなる原因はそのようかと思う。市場が縮小しようともまだ相当数の需要(複数のメーカーが生き残られる程度の)があれば生産は続けられるが、男物の紋付地の市場は極めて小さい。1社ですら持ちこたえられなくなったのだろう。
このような状況が進めば、我々小売屋はどのように対処したらよいのだろうか。
「男の黒紋付を」とやってくるお客様に、「黒紋付はありません。黒紋付の生地は、この世から消えました」とは言えない。
つづく