全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-47 本当の普段着(その2)
和装洋装を問わず普段着とは何を指すのだろう。アイテムを揚げれば、洋装ではジーパンやTシャツがそれにあたる。アイテムでは全体像がつかめないので、普段着とはどういう場面で着られるのだろう。それは文字通り「普段」に着るものである。では、「普段」とはどういう生活の場面を指すのか。
生活の時間、すなわち1日24時間、1年365日、普段の場もあれば晴の場もある。しかし、それらは完全に区別できるものでもなく、二つの範疇に分けられるものでもない。洋服の場合を考えて見よう。
最高の晴の場である結婚式に女性はドレスを着るかもしれない。私は洋装にあまり詳しくはないが、礼装のドレスにもイブニングドレスやナイトドレスなど、そのシーンや時刻によって着るべきドレスが様々あるらしい。
ドレスでなければスーツも晴の場の洋服である。しかし、スーツにも布帛のスーツもあるしニットのスーツもある。同じスーツではあるけれども、ニットはカジュアルとみなされている。同じ「スーツ」でも、「超晴の場」(変な言葉であるが)から「そこそこの晴の場」(これも変な言葉である)に着るスーツまであり、同じ「スーツ」でも時を同じくして着れない物がある。
ワンピースも一般的にカジュアルとされているが、中にはとてもお洒落で高価なよそ行きのワンピースもあれば、「ホームドレス」「簡単着」あるいは「アッパッパ」と呼ばれる家庭用のワンピースもある。ホテルで友達と会う時に着るワンピースを家事の時には着ない。ホームドレスでホテルに行けば視線を気にする事になる。
すなわち、晴れ着、普段着と言っても、そこに一線を引くことはできず、普段着の中でも不断に連続的にアイテムが並んでいる。
生活の中で「晴れ」から「普段」まで不断で連続的なシーンに合わせて、洋服はアイテムが揃えられている。
「今度の同窓会は、このワンピースを着て行こうかしら。だけどちょっとおしゃれすぎるから、こちらのワンピースの方がぴったりかな。」
と言うように、そのシーンに合った洋服を選ぶのがマナーでありセンスの見せどころでもある。
では、着物の場合はどうだろうか。
昔は(洋服がなかった時代)皆着物を着ていた。そしてその時代も今と同じように様々な生活のシーンがあった。晴の場も普段の場も。もっとも庶民や農民は、結婚式や入卒式など今ほど晴の場があったとは思えないが、それでも晴の着物、普段着の着物は持っていただろう。そしてそれらは、今ほどアイテムが豊富ではなくても、どんなシーンにも合わせた着物が用意されていただろう。
しかし、現代の着物のアイテムと言えば、留袖、振袖、訪問着、附下、小紋、紬・・・と言う事になる。そして、それらを着るシーンと言えば、物の本によればはっきりと決められているらしい。「きものTPO早見表」なるものが、その格付けをデジタルに決め付けている。
「普段着の着物は?」
と聞かれれば、紬、綿、ウールが思い起こされるが、それらを一色反にするのは無理がある。
「結城紬はいくら高価でも普段着です。」
と言う言葉を聞いて、結城紬を着るシーンとウールを着るシーンが同じだと思う人はいないだろう。結城紬は絣柄で普段着であることは間違いないが、同じ立派な絣柄である弓浜絣や久留米絣、広瀬絣とは着るシーンで一線を画していることは間違いない。
「普段着」と言えば、普段着と呼ばれる着物が全て同じシーンで着られるものではない事、「普段の場」は細かく、また不断に連続的な違いがある事を覚えておかなければならない。
つづく