全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-49 時代の転換点・商売の転換点(その6)
私は2月から全く出張をしていない。商品の仕入れに行っていない。定期的に店にやってきていた問屋やメーカーの出張員もぴたりと来なくなっていたが、最近ちらほらやって来るようになった。
白生地屋さんとの話は、やはりコロナの影響についてである。
「いや、メーカーは今大変なことになっています。」
白生地屋さんの話である。
我々小売屋は、出張に行けず売上も上がらないまま、仕入れをせずに在庫商品を売ってしのいでいる。身を伏せて体力を消耗しながらも何とか嵐が過ぎ去るのを待っているようなものである。
しかし、メーカーとなるとそうは行かない。メーカーは物を作らなくては売上が上がらず現金が回らない。只でさえも採算ぎりぎりの処で業界を支えてくれているメーカーは生産を止める事は直ぐに商売が行き詰まる事を意味する。
「襦袢が無くなるかもしれません。」
その言葉に私は驚いてしまった。襦袢が無くなれば着物を着る事は出来ない。目立たないけれども襦袢は着物のアイテムの中では重要な位置を占めている。白生地屋さんの言葉は続いた。
「襦袢と言っても安い襦袢です。セット物の振袖に使うような。」
セット物振袖の襦袢は非常に安い物が使われる。しかし、量的には昔に比べれば減ったとは言う物の相当の数が出ている。それだけに薄利の大量生産が求められていたのだろう。
しかし、コロナ過の為、来年の成人式事情が中止や延期を余儀なくされている。振袖の売上にも大きな影響を与えている。薄利で大量生産していた襦袢の需要が半減すればメーカーはやって行けない。廃業を考えるメーカーが現れてもおかしくはない。
コロナの影響は、我々川下の小売屋よりも川上のメーカーにはダイレクトに響いている。襦袢のメーカーだけではなく他にも廃業を考えざるを得ないメーカーも沢山あるだろう。業界の為に何とか踏ん張っていただきたいものだけれども、今回のコロナ禍はそれを越えるものかもしれない。
業界内部の事情、消費者の心理的変化等を考え併せると、このコロナ過は正に「時代の転換点・商売の転換点」のように思える。
売上が減少したからと言って、従来の方法で販促を強めて売上を伸ばす、と言った事は通用しない。商品の供給が従来とはまるで違ったものになることも予想される。その中でどのように生き延びたらよいのか、呉服業界を着物の伝統をどのように守り続けられるのか、今迄とはまるで違った発想が求められる。
今は正に「時代の転換点・商売の転換点」に我々は立っている。