全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-50 着物の処分・箪笥の整理(その6)
黒の紋付(喪服)も良く箪笥に入っている。喪服も昔は必需品であった。葬式の時には必ず女性は喪服を着ていた。今と違って暖房の完備していない広い本堂では、寒いので黒の紋付羽織を着ていた。
しかし、何時頃からか、と言うよりも洋服が広がり出してから喪服は次第に少なくなってしまった。そして挙句の果てに「喪服を着るのは親族の女性」と言うコンセンサスが広がっている様にも思われる。
故人の奥様や娘さんは今でも喪服を着る場合が多い。しかし、参列者が喪服を着て行くと「ご親族ですか」と声を掛けられる場合がある。そんな事情もあって、参列者は喪服を着るのをはばかって黒の江戸小紋や寒色の色無地を着ている人も見かけるようになった。呉服屋としてはなんとも寂しいが、これも時代の流れなのだろう。
さて、箪笥に仕舞われている黒紋付は古い物から最近の物まで様々である。やはり、喪服を処分するのに抵抗があるのだろう。とても古い黒紋付が仕舞われていることがある。
黒紋付の生地は、今は縮緬地がほとんどになってしまったが、かつては羽二重地だった。男性用の黒紋付は地の厚い塩瀬羽二重地を使うけれども、女性用は少し地の薄い羽二重地だった。羽二重地は縮緬地と比べて光沢がある。それ故に縮緬の黒紋付と比べると白っぽく見える。そんな理由で黒紋付の生地は羽二重地から縮緬地に変わったのかもしれない。今は全て縮緬地である。
少し前(20年位前)には、縮緬地が主流の中で、以前の羽二重地に習って羽二重地を注文するお客様もいらしたが、現在は全くいらっしゃらない。
箪笥にある黒紋付が羽二重地であれば、間違いなく古い物と思って間違いない。生地は触ってみれば縮緬地よりもすべすべするのですぐ分かる。そして、古ければ色が変わっている場合がある。
そのような黒紋付の仕立て替えは、まず難しい。余程の思い入れでもなければ、廃棄処分を考えるのが妥当である。
比較的新しい縮緬の黒紋付の場合は、持ち主が健在であれば(母用、娘用など)やはり保存しておくのが良いだろう。留袖と同じように、黒紋付の場合、襦袢や帯がセットで用意されている。今後、着る場合がないとは限らないのであれば、再度新調する事を考えれば安い話である。
母親の黒紋付があり、娘のがない場合。そして、母はもう着る事がない。親戚の葬式があってももう参列しないと言う事もあるだろう。その場合、母と娘の体形が、そう違わない場合は、やはりとって置いた方が良いとアドバイスしている。その黒紋付が十分に着られるものであれば是非ともそうしていただきたい。
留袖も黒紋付も慶弔の式服である。できればそれらを大切にしていただきたいのである。もちろん、十分に着られる状態であればの話ではあるが。
つづく