明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-50 着物の処分・箪笥の整理(その7) 

ゆうきくんの言いたい放題

➂ 男物黒紋付羽織袴

 男物の黒紋付も度々箪笥の中でお目に掛かる。ほとんどが羽織と袴、襦袢がセットである。昔は成人男子がスーツを誂えるのと同じように男性は、黒の紋付羽織袴を揃えたのだろう。余り着た形跡がない様な状態の物もよくある。

 昔と言ってもおそらく昭和30年代頃までだろうか。私の世代(昭和31年生)で黒紋付を持っている人は少ない。それ以前、昭和30年代に成人あるいは結婚した男性の必需品だったのかもしれない。

 それらの紋付を見て一様に実に立派な紋付なのに驚かされる。立派と言うのは、生地が素晴らしい。男物の黒紋付は、塩瀬羽二重地が使われている。塩瀬羽二重地は胴裏に使うような羽二重地と違って太い糸、特に横糸が太く地厚でしっかりしている。最近まで織られていた塩瀬羽二重は高価なものでもここまで生地がしっかりしていない。そう思わされる。昔は、家長となるべき人には最高の黒紋付を仕立てたと言う思いが伝わって来る。

 さて、この黒紋付をどうしたらよい物か。物品を見れば、私は「捨てるにはもったいない」いや「捨てるのは失礼だ」とも思えてしまう。

 黒紋付の場合は、「着物の好きな人に差し上げる。」と言う選択はまずない。紋付には紋が付いている。家紋である。家紋は着ている人の出自を表す。男性の黒紋付は皆自分の家の家紋を付ける。

 女性の場合は家紋に拘らない。何故女性は家紋に拘らないのかと言えば、昔の男尊女卑の思想も絡んでいる様にも思えるのだが、女性はより女性らしい紋を付ける、と言う意味もあるらしい。

 男性の黒紋付の話なので女性はさて置き、黒紋付には家紋を付ける。従って紋の違う家の人に来てもらう訳にはいかない。黒紋付、とりわけ古い黒紋付の紋を入れ替える事は出来ない。出来るとすれば張紋である。結婚式場の貸衣装では張紋をするのだろうけれども、一家の家長となる人に「張紋を付けてどうですか」とは言えない。それよりも前に、現代の世の中では男性が黒紋付羽織袴一式を仕立てる人は少ないだけに揃えようとする人はそれなりの物を要求する。張紋で満足するとは思えない。

 そんな時私は、箪笥の前に座った母親と娘さんに、「息子さんはいらっしゃいますか。」「ご兄弟はいらっしゃいますね。」と聞くようにしている。

 今時男性の多くは、ほとんど着物に興味がない。母親も、息子の着物と言う感覚はないようで、息子さんの紋付羽織袴姿はすでに頭からはずされている。

 私は、「是非息子さんの為に一式とって置かれたらいかがですか。」と薦める。

 今の若者は昔の人に比べて体格が良い。身長差があり、いかがかと思われるかもしれないが、幸い男性の紋付には必ず袴を履く。身丈が短くても着るのに不都合はない。裄の問題はあるかもしれない。しかし、少々我慢していただくか、裄だけを直せばよい。黒紋付の場合、裄出しはなかなか難しい。塩瀬羽二重は折痕がなかなか消えない。古い物ではなおさらである。また黒は、色が微妙である。焼けていることもある。それでも巧く直して直せない事もない。そこまで考えても、男性の黒紋付羽織袴は日本男子の矜持としてとって置いていただきたいのである。

つづく

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