全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-50 着物の処分・箪笥の整理(その8)
さて、それでも息子さんは、「着ない」「いらない」だとしたら。捨てるには忍びない黒紋付を役立ててもらう次の様な方法もある。
実は黒紋付を欲しがっている人達がいる。例えば弓道家である。弓道では正式な試合では黒紋付を着る。本当の弓道家は自前の黒紋付を持っている。しかし、その手前と言っては失礼だが、若い弓道家、ずばり大学の弓道部員である。
大学の弓道部員の中には自前の黒紋付を持っている人もいるけれども、ほとんどの学生にとって塩瀬羽二重の黒紋付など高根の花である。安い紬の古着などを買ってきて着ているらしい。
一度、大学の弓道部員が黒紋付を欲しがっていると言うので紹介したことがある。大変喜ばれた。必要であれば張紋をして家紋にしてあげようと言ったが、それも必要なかった。とにかく黒紋付を着るのにあこがれているようだった。
もう一人、黒紋付を着る人がいる。落語家である。最近の落語家は、笑点のような派手なパステル調の色紋付を着る人が多い。しかし、元々は「高座は黒紋付」と決まっていたと言う話を聞いたことがある。高座での黒紋付は威厳があって噺家に相応しい。
大学の落研では、今時の派手な色紋付など誂える人はいない。古着屋に行っても得られないだろう。そう言った人達に黒紋付を提供しては如何だろうか。
謡曲をなさる方も黒紋付を着る。ただし、謡曲をなさる方は、そこそこの身分の方が多く、格式を重んじ自前の紋付を着ているので余り需要はないかもしれない。
もう一人、変わった所では、演劇集団がある。私の店に時々顔を出す若い演劇集団のメンバーがいる。殺陣を行う時代物の演劇を得意としている。どんな演劇でも衣装を準備するのに苦労するらしい。武士の黒紋付姿を演じるのに来てもらおうと話をしたらとても喜んでくれた。舞台衣装に立派な塩瀬羽二重の紋付はもったいないように思えるが、着てくれる主人のない黒紋付にとっては本望ではなかろうか。
黒紋付の処分方法をあれこれと並べてしまったが、本当は家のシンボルとして残していただきたいのが本音である。
日本男児の黒紋付羽織袴姿は、是非とも残していただきたい日本の文化である。もう一度箪笥を開いて、黒紋付が出て来たならば考えていただきたいのである。
つづく