全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-50 着物の処分・箪笥の整理(その9)
➃ 訪問着・付下げ(晴の絵羽着物)
箪笥の中に必ず入っているのが訪問着や付下げなど晴れ着の着物である。これらは絵羽物と呼ばれる。
絵羽物は、屏風絵のように着物全体で一枚の絵を構成するもので、白生地の段階から裁ち合わせを決めて染めている。その為、身丈は小紋の様に背丈に合わせて裁つのではなく内揚げを調整して仕立てる。
従って絵羽物の場合は仕立て直すのに身丈が採れるかどうかは心配ない。余程身長の高い人(170cm以上)は問題となるが、普通の人であれば仕立て替えるのに寸法の心配はいらない。
仕立替えに心配はいらないが、差し当たって周囲に着物を着る人がいないならばどうしたら良いのだろうか。
訪問着や付下げは趣味性の高い着物である。他の着物も着る人の好みを大切にするので趣味性は高いと言えるけれども、留袖の場合、「せっかくお母さんの留袖があるからそれを着てはいかがですか。」とも言えるけれども、訪問着の場合柄の好みが優先して中々そうは言えない。
私は、着る人がいないのならば残念だけれども処分するしかないと思っている。誰も着もしない訪問着を後生大事にとって置いても、後に着物を着る人が現れても柄を好んでもらえるかどうかも分からない。
ただし処分する前に一度着物を良く知る人(呉服屋等)に見てもらった方が良い。中には処分するのに惜しい着物もある。
私の店に丸洗いする為に訪問着を持ち込んだお客様がいらした。
「この着物、貰ったのですが、私着られるでしょうか。着られる様だったら洗ってほしいのですが。」
そのお客様は着物を貰ったけれどもどうしたら良いか分からない様子だった。風呂敷を解いて着物を広げて見た。
「えっ、この着物貰ったんですか。」
私は目を疑った。羽田登喜男氏の訪問着だった。訪問着は畳紙にも入れず、丸めて風呂敷に包んであった。
羽田登喜男氏は人間国宝の友禅作家である。ダイアナ妃に贈られた振袖の作家でも知られている。鴛の柄が特徴的で、一目で氏の作品と分かる。インターネットで古着が安く売られている例もあるが、未仕立の新品であれば数百万の着物だった。本人は全く分からず、ただの訪問着と思っている様子だった。お客様にはその訪問着の説明をして大切に着て頂くように申し上げた。
その着物を譲られた方も、どのような気持で譲ったのかは分からない。貴重な作品が、場合によっては失われてしまったかもしれない。
着物は投機の対象とはならず、如何に貴重な着物でも売買する値打ちはないと考えた方が良い。しかし、着物を知る者にとって貴重な作品はどこまで行っても貴重な作品である。
箪笥の中の訪問着や付下げは、処分する前に一度吟味していただきたいのである。
つづく