明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-51 日本の職人技のすばらしさ(その5)

ゆうきくんの言いたい放題

 私の息子は、ある中間素材メーカーに勤めている。その会社の研究所で製品の開発をしている。その業界でも中国や台湾、韓国の製品が日本に入って来る。そこで、韓国製の製品をテストしてみると、
「よくこれで製品化しているね。」
と一同驚いたと言う。

 もちろん全てがそうではないだろうし、中国は宇宙船を月に往復させられる技術を持っている。それらの国々が日本よりも必ずしも技術のレベルが低いとは決めつけられない。問題は、持てる最高技術の水準ではなく、汎用品に対する物創りの姿勢である。

 冒頭に書いたように、日本の染織技術者は染難、織難一つ出ない様最新の注意を払って物創りをしている。日本製の製品の信頼感の源泉である。

 日本製とミャンマー製の染物を比べれば、間違いなく日本の染物に軍配が上がるに違いない。今電気店に並んでいる携帯カセットレコーダーと三十年前のソニーのウォークマンを比べればソニーに軍配が上がるだろう。

 しかしながら日本の染織品は需要の減少もあるが、次第に海外製品に取って代わられている。製品として間違いなく良い日本製品の肩身が狭くなってきている。何故だろうか。

 それは価格による市場の支配が進んでいるからだろう。安い物を求める市場が日本製品を次第に追い詰めている。大変残念に思う。

「ゆうきくんの言いたい放題 Ⅶ-22.絹の動向」で書いた通り、日本の絹は殆ど消えかかっている。定性的に測定すれば、日本の絹糸はずば抜けて品質が良い。しかし、その生産コスト、人件費等でコストが嵩み、品質を考慮しても価格的に国際競争力を失ってしまっている。

 日本人のみならず、世界中の人達は、よりよい物を造ろうと古より励んできたはずではなかったのだろうか。

 日本の技術、素晴らしい職人技で創られた製品が、安価な外国の製品に駆逐される姿を見るのは忍びない。私が京都で出会った職人の方々。手機の織機で帯を織る職人。友禅の糸目を入れる根気のある糸目職人。織機の紋紙を打つ紋紙士。神業の様に色ヤケを直す職人。破れた生地を元通りに直す欠け剥ぎ士。その他星の数ほどの手業を持った職人達に着物は守られてきた。

 そして、それらの産物を私達は当たり前の物として受け取って来た。白生地に少々の難を見付けると、
「なんだ、これ難物だ。」
と言って返品し、職人もそれに応じて来た。

 白生地を無地染めするにはとても高度な技術がいる。ムラなく染める事もそうだけれども、指定された色を出さなくてはならない。お客様から無地染めを頼まれると、見本帳の色見本を添えて発注する。すると色見本と寸分違わない色で染上がって来る。

 私は長年、無染めの大変さを知りながらも、それが当然と思ってきた。しかし、最近その無地染めの職人達は何時までいるのだろうかと心配になって来た。日本に無地染め職人がいなくなった時、安価にできるミャンマーに無地染めを発注する事になるのだろうか。

 日本の技術、職人技はいつか必ず再評価される時が来る。製品の安さではなくその品質が第一に求められる時が。それは染織の世界だけではなく、現在劣勢に立たされているあらゆる業種、分野でも同じだと思う。その時、日本経済は再び世界の脚光を浴びる事となると信じている。

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