全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-52 環境問題ときもの(その2)
長年呉服屋を営んでいると、着物の構造がよく分かって来る。
「着物と洋服の違いは?」
と問われると、誰でもあれやこれやと違いを並べ立てる事と思うが、はっきりとした違いと言えば、「着物はエコ」の一言である。
着物と洋服の違いとしてよくあげられるのは、その裁ち方である。 着物は直線裁ちを原則としている。それに対して洋服は、型紙に沿って曲線や角度(直角ではない)を付けた裁断が行われる。立体裁断、平面裁断どちらにしても着る人の体に合わせた裁断がなされる。その結果として裁断した残りの生地が出る。
着物の場合、裁断は生地に対して直角にである。着物のどの部材を見ても寸法の違いはあれ、どれも長方形である。仕立てた着物を解いて延ばせば元の反物になる。捨てるところは全くないのである。
生地が長方形、即ち直角に裁断されている事は縦横に伸縮して再縫製できる可能性を含んでいる。袖は裁断した生地を半分に折り袖先を縫い留める。袖先の生地をどれだけ縫い込むかによって袖丈は決まる。1尺4寸の袖を解いて1尺3寸に仕立てる事ができる。十分に生地が縫い込んであれば1尺6寸の袖もできる。
身丈もしかりである。身巾も仕立て替える時にどれだけ幅を採るかで必要な身巾を確保できる。身丈の場合、内揚げをして将来身丈を延ばすのに備えている。袖丈は生地を縫い込むことによって袖丈を延ばすのに備えている。
着物の寸法を記載する場合、「上がり〇〇」「裁ち切り××」と記載する事がある。「上がり」とは、仕立上がった時の寸法を指している。「裁ち切り」と言うのは、反物からどれだけの寸法で裁つのかを意味している。
袖丈を1尺3寸とする場合、「上がり1尺3寸」になるけれども、仕立士はそれに従って、1尺3寸プラス縫い代で生地を裁つ。しかし、これでは後々袖丈を延ばせなくなるので、縫い込みを多く採る為に「上がり1尺3寸、裁ち切り1尺4寸5分」と言うように仕立士に指示する。身丈も同じである。「上がり」と「裁ち切り」の差は内揚げに縫い込まれる。
反物の長さには限界(12m程度)があるので、いくらでも「裁ち切り」を長くすることはできないけれども、反物をいっぱいに使って、できるだけ将来寸法を延ばせるよう対応する事ができる。
洋服の様に、裁断した残りを捨てる事はなく、解けば再び異なった寸法で仕立てる事ができるのである。
着物のエコは、裁断仕立てだけではない。着物の構造そのものがエコである。着物のいたる所に長く着る為の工夫が凝らされている。
つづく