全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-52 環境問題ときもの(その3)
袷の着物には裾や袖口など外から見える部分には八掛(裾回し)と言う生地が用いられる。無地またはボカシで染められ、表生地との色のハーモニーが着物のおしゃれを引き立てている。
この八掛は表生地よりもわずかに出るように仕立てられる。表生地よりから僅かに出る事によって色が見えるという効果もあるが、実は八掛が表生地を守っている。
裾や袖口は長い間着ると擦れてしまう。擦り切れてしまう事もあるが、八掛が出ていることによって八掛が擦り切れ、表生地が擦り切れないように守られている。
毎日着物を着ている人は八掛が擦り切れた経験があると思う。私の店にも時々そう言った着物が持ち込まれる。擦り切れた八掛は、仕立て替える時に八掛をずらして仕立てる事ができる。擦り切れた部分を裁って新品同様に仕立替えができる。
実は、私の店では八掛が擦り切れた時、仕立替えはせずに裾を解いて直すことも薦めている。裾を解いて縫い込むだけなので仕立て替えするよりも遥かに安く上がる。ただし、身丈(衿下)が1寸弱短くなる。仕事で着物を着るお客様の中には、これを3回してから改めて仕立て替えする方もいらっしゃる。仕立替えすれば、身丈は元通りになる。
襦袢に半襟を付けるのはご存知の事と思うが、何故は半襟を付けるのか。
襟は一番汚れやすい処である。首とこすれて汚れてしまう。もしも半襟が無ければ、襦袢の衿は汚れ、しょっちゅう洗濯をしなければならなくなる。洗濯だけではなく襦袢の衿は直ぐにボロボロになって仕舞う。半襟は、それを防ぐためにワンタッチで取り換えられ、汚れと消耗を一身に受けているのである。
また、半襟そのものも、何度汚れても洗濯ができ、それもできなくなれば、反対にしてずらしたり、裏返しして使う事もできる。最後の最後まで着物を守り清潔を保ってくれるのである。
着物本体にも「掛け衿」が付いている。この「掛け衿」の起源は、反物の裁ち方から考えると、最後に残った布を当てたようにも思えるけれども、「掛け衿」は、それ自身で着物の寿命に大きく貢献している。
首周りの汚れを半襟が一身に受け止めている、とは言え、それでも着物本体の首周りは汚れ易い部分である。
テレビドラマなどで、昔の考証の場面で、市井の夫人が襟に手拭を掛けた姿を見る事がある。当時の庶民の姿を表現している。また、衿に着物の生地とは違った別の黒い衿(黒繻子または黒八?)を付けた人もいる。当時、庶民は普段着の着物を如何に大切に着ていたのかの証左である。見た目、お洒落よりも着物を長く着たいと言う表れである。
それでも掛け衿は長年着れば汚れるものである。何度か私の店にも掛け衿が汚れて、あるいは擦り切れそうになった物が持ち込まれたことがあった。その時は、掛け衿を外して洗い張りして、紬の場合は裏返ししたり、反対にしてずらして汚れた部分は襟の内側にして掛ける、と言う事もする。
ほとんど擦り切れそうな場合は、擦り切れた部分に裏打ちをする。そして、衿を解いて掛け衿の下にあたる部分を切って掛け衿にし、擦り切れた掛け衿は襟に継ぎ足して掛け衿の下に隠す、と言う事もできる。
染物の訪問着や小紋は、なかなか切ったり貼ったりできないが、普段着は紬が多いので、切ったり貼ったり裏返しして仕立て直すことができる。紬の上前が擦り切れそうになれば、解いて、身頃を裏返して仕立てれば、擦り切れそうな部分は下前に入る。
つづく