全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-52 環境問題ときもの(その8)
染屋は消費者が着て見たくなる着物を染める。帯屋は消費者が締めて見たくなる帯を織る。それぞれの職人は、持てる最高の技術で染め、織る。
問屋は市場の好みを染屋織屋に伝えながら、小売屋に売れそうな商品を買い取り仕入れて行く。染屋織屋で創られる商品は、自ずから問屋の厳しい目にさらされて淘汰される。
呉服屋は、お客様が好み確実に売れる商品を買い取って行く。そして商品をお客様の目に晒し販売する。売れなければ呉服屋の審美眼が未熟であったと三省し、更に良い商品を仕入れる努力をする。
この一連の流れは、織屋染屋、問屋、呉服屋の三者いずれも消費者に更なる良い商品を提供するのに寄与している。それが消費者の為であり、あらぬ付加価値やサービス、接待などは必要ない。
消費者には、このようにして購入した着物を大切に扱い、長く着ていただく事になる。良い物を飽きずに長く、…まさに環境にやさしい衣装である。
染職人、織職人が材料も吟味して丹精を込めて創った商品は、当然高価なものとなる。しかし、それはあらぬ付加価値によって高騰したものではなく、着物本質の付加価値によるものである。
捺染による江戸小紋は7~10万円程度だけれども、型で染めた江戸小紋は30万円程度である。この三倍の価格は江戸小紋の本質的価値の差である。
価格は三倍もするけれども、型で染めた江戸小紋に愛着を持って長く着ていただく事が、これからの呉服業界に求められることではなかろうか。
「本物の着物を長く着て頂く」
と言うと、
「着物は皆高価になってしまい、若い人には手が届かなくなってしまうのではないだろうか。」
と思われるかもしれない。しかし、これこそが現代の着物業界の問題であり、改革すべき点である。
「着物は高い」と思われているふしがあるが、実は着物は思われているほど高価ではない。製造原価を考えれば、目の玉が飛び出るような価格の着物は極一部である。着物を高価にしているのは流通過程の問題である。
何度も指摘してきたけれども、着物の価格は小売店によってまちまちである。そして、その差は非常に大きい。着物に有らぬ付加価値を付けて高価に見せかけている事もあるし、展示会や接待などで多額の費用が掛る為に全て価格に上乗せされている場合もある。
先に江戸小紋の例を示したけれども、以前私の店で68,000円の捺染江戸小紋が二十数万円で購入したと持ち込まれたことがあった。物は全く同じである。私の店で仕入れた商品と同じ物が、展示会その他で3~5倍で売られている。そのような価格で購入するのであれば、捺染ではなく型染の江戸小紋を買う事ができる。
江戸小紋だけではなく、着物や帯が製造原価からはかけ離れた価格で売られている。型糸目の訪問着が作家物として高齢者に法外な価格で販売し訴訟が起きている。
それらを是正して着物の流通を原点に戻すことによって、消費者が本物の着物を十分に手にする事ができるのである。
つづく