全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-52 環境問題ときもの(その5)
仕立替えや修理、丸洗いをしてお客様に渡した時、
「あら、新品同様になったわね。」
「こんなにきれいになるんですか。」
「これでは何時までも着れますね。」
と言う言葉を聞くと、私は呉服屋として嬉しくなってしまう。着物は洋服に比べれば決して安くはない。しかし、このように大切に着て頂ければ、着物は高い物ではないし、それよりも、物を大切にする日本人の気質が感じられるのである。
しかし、着物を大切にメンテナンスするお客様は多くはない。今お客様のほとんどは、結婚式や卒入式などの式服やお茶などの習い事の為に仕立てる人である。普段着を仕立てる人もいるけれども、毎日着る訳ではない。従って、ボロボロになるまで(表現は悪いけれども)着物を着潰す人はいない。江戸時代の様な循環型消費とはかけ離れている。
「もっと着物を着れば良いのに」とは思うけれども、これも時代錯誤の感は否めない。時代の流れを考えれば、「日本人は始終着物を着ましょう」と言うセリフはもう通用しない。
「着物を持っているのに着ない」「仕立替えをしない」と言うのは、何とももったいない話なのだが致し方ないのかもしれない。
それでも着物が、本質的に環境にやさしいのは変わらない。では、今後どのように着物と付き合って行くべきなのだろうか。
環境にやさしいと言う着物の本質が失われている原因は、実は半分以上我々呉服屋、呉服業界に期するところである。
着物の需要が激減し、着物が売れなくなっている。それを打ち消そうと、盛んに新しい着物の売り込みが激しく行われている。新しい着物を売る為に、次々に新しい企画、商品そして販売方法が生み出され、消費者に着物を売りこんでいる。商売としては間違った方向ではないけれど、着物を大切に着ようと思っている人でも次々に新しい着物を買っていたのでは、仕立て替えの機会などありはしない。
そしてもう一つ、呉服屋の使命として着物の仕立て替えや修理をはじめとするメンテナンスは、その重要な位置を占めてきたはずである。
「この着物、仕立て替えしたいのですが。」
「裾が切れたので直してもらえますか。」
「私の着物を娘の嫁入り道具の一つにしたいのですが。」
そう言ったお客様の需要に応えてきたのが呉服屋のはずだったのだが、新しい着物を売ることに専念して、そういったメンテナンスには応じない、または応じたくない、応じられない呉服屋が増えている。
初めてのお客様が、古い着物を持って恐る恐る来店されて、
「着物の仕立替えってしていただけますか。」
と言うケースがある。
「はい、何でもご相談に乗りますので、どうぞ広げてください。」
そう言うと、信じられない表情で、
「お宅で買った着物ではないのですが…。」
「ええ、大丈夫ですよ。うちは呉服屋ですので。」
意外と古い着物を仕立て替えや再利用を考えている消費者は結構いるのかもしれない。そして、その持って行き所が分からないでいるのかもしれない。
呉服屋は新しい着物を提供する事も仕事なれば、着物を大切にメンテナンスし長く着て頂く努力をするのも大切な仕事である。
まずは呉服屋がその事を消費者にアピールして行くことが大切である。
つづく