全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-56 コロナ一年、アフターコロナは?(その7)
東京の都心に広い事務所を構え、社員はその事務所に出勤して仕事をする。都心の事務所は会社のステータスとなり、事務所に集う社員は意思疎通をしながら仕事をする。長年日本で培われてきたビジネスモデルである。
高騰する家賃にも関わらず、都心に会社が集中し、社員の住居は遠い処に追いやられ、それでも誰もその不自然さに異を唱えなかった。出勤に2時間も掛かり、仕事でくたくたになって家に帰る生活スタイルは、極自然に感じられていた。
しかし、今日ITの発達もあり、リモートワークが可能となった。本当は既に気が付いていた人もいたかもしれないが、コロナ禍がそれを世に知らしめてくれた。
会社に出勤する意味はどれ程あるのだろう。家で仕事ができるのであれば、1時間や2時間仕事時間が長かろうと、遥かに人間的な生活ができる。
また、海外旅行と言えば、昔は高嶺の花だった。昭和30年代は、円が安かったのに加え、外貨の持出規制があり、海外旅行に行く人は極限られていたし、非常に不便を強いられていた。
日本が高度成長を遂げ豊かに成り、海外旅行は身近になった。学生は「卒業旅行」と称して、卒業間際に海外旅行をする。定年退職者の中には、年に数回海外旅行を楽しむ人も珍しくなくなっていた。近場では、国内よりも安い航空券が販売され、海外旅行は安く安心して(本当は危険がいっぱいなのだけれども)楽しめると誰もが思っていた。
しかし、これまで日本人が積み上げてきた海外旅行のイメージは、コロナ禍によって崩されてしまった。そして、それにリンクして売上を伸ばしてきた航空業界も今後の難しい対応が迫られている。
東京のビジネス環境、海外旅行いずれにしても日本人が実績や慣習を積み上げて来たものだけれども、このコロナ禍によって脆くも瓦解している。そして、コロナが去った後また元に戻る保証はない。いや、むしろ今までの常識(と思われていた)は通じなくなるだろう。
コロナが去っても、消費者のこのような心理は戻りそうもない。それは、航空業界や旅行業界に留まらず、全業者に及ぶものと思われる。
私は、コロナ後の消費者の心理は、「変化する」のではなく「正常に戻る」と言うのが正しいと思う。日本の経済発展に伴って積み重ねてきた今日の(コロナ以前の)状態は異常と思われる部分がある。
都心の超高額な地代のオフィスに個人の生活を犠牲にして長時間の通勤を強いられるのは自然な姿であったのか。そうなる前に何故に気付かなかったのか。
年に何度も海外旅行に行く事が経済的には許されても、環境への負荷や訪問国の事情を考えればまともな事だったのか。世界中の人達が全員同じ生活を始めたらどうなるのか。
物事の積み重ねは、小さい事象を積み重ねている時には、その行く末がどちらに行くのか分からないものである。真っ直ぐに積み重ねているつもりでも、結果的に捻じ曲がって積み重ねられていることも多く、現代の社会には、それが多く見られるように思う。
呉服業界の消費者が着物に抱いている心理は大きく変わるだろう。その「変化」は、「変化」ではなく「正常に戻る」と言った方が良いかもしれない。 さて、では我が呉服業界はコロナが明けた先、どのようになるのだろう。
つづく