全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-56 コロナ一年、アフターコロナは?(その4)
さて、ここで「売上とは何か」を考えさせられた。「売上」はお客様の買い物である。お客様の買い物は、お客様が必要とする商品である。必要とする商品をお客様が買い物をすると当店の「売上」となる。
コロナ過の中でも来店するお客様が買うのは「お客様が必要な物」だった。嫁入りの為の着物を買いに来られた方もいる。子供の七五三の着物を買いにいらした方もいる。母親から貰った着物を仕立て替えする為に来店された方もいる。仕立てていなかった袋帯を仕立てにいらした方もいる。
いずれも、来店されたお客様は必要な買い物をして行かれた。本人にとって必要な消費をして行かれたのである。
我々商売人は、何とか売上を伸ばそうと努力している。呉服屋であれば、
「あのお客様には次に来店された時には、この帯を勧めよう。」
「今までになかった商品を仕入れてお客様の購買意欲を高めよう。」
「売り出しをしてお客様に来店頂こう。」
と言った具合である。お客様の購買意欲に先走って商いを行ってきた。
しかし、コロナ禍によってそれらが誘発する売上はことごとく失われた。商売人にとって商売は壊滅的かと思われた。しかし、波が押し寄せて砂の城は流されても、波が引いた後には、しっかりと波に負けない貝やカニが残されるように、コロナ禍が長く続いても、呉服の消費は厳然と残っていた。
我々呉服屋は「売る」商売にばかり気が採られ、「売れる」商売には気が付かなくなっていたようだ。
この「売れる」商売に、このコロナ禍の中、私の店は救われている。もちろん売上は減っているが、何とか資金繰りを支えてくれている。ありがたい話である。
商売に於いて、お客様が必要とする「売れる」商品を揃える事は原点である。お客様はどんな商品を欲しているのか、それらをどれだけ欲しているのか。それを的確に掴んで初めて商売が成り立つ。
酒蔵であれば、闇雲に酒を沢山作っても売れるものではない。世間がどのような酒を欲しているのか。そして自分の蔵はどのような酒なのか。それらを勘案して消費者が欲する「売れる酒」を世に出し、それが消費者の支持を得て商売が成り立つ。大々的なキャンペーンにのみ頼って販売しても、それは続くものではない。
現在の呉服屋は、どれだけ「売れる」商品を意識しているだろうか。呉服の需要が減る中、何とか売上を維持しようと「売れる」商品はさて置き、「売る商品」の充実に専念してきた。「売れる」商品を意識しなかった店は、このコロナ禍で相当のダメージを受けているかもしれない。
つづく