全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-59 アフターコロナ(その5)
かつては、西陣の織屋の数は星の数ほどあった。星の数ほど、と言うのは大げさかもしれないが、私の持っている一覧には織屋番号が2489まであるので、少なくとも2489軒はあったはずである。
織屋の中には、袋帯を主に織っている織屋、八寸名古屋帯を織っている織屋。また、つづれ織専門の織屋や、すくい織を専門とする織屋、喪服用の黒共帯を織っている織屋、帯以外の織物を織る織屋もあった。もちろん大きな織屋では、丸帯、袋帯、名古屋帯をはじめ様々な織物を織っている織屋もあった。
それぞれの織屋には特徴がある。織られた帯の顔はまるで違う。見慣れた帯であれば、帯を見ただけで織屋が特定できる。それらの中から自分の店に合う帯を仕入れるのが小売屋である。織屋の織の質、価格を考え合わせると、自分の店で仕入れる帯の織屋は限定されてくる。限定されると言っても、かつては数十軒の織屋がその対象となっていた。数十件の織屋から商品を選んで品揃えをすれば、お客様の要望には、ほぼ100%対応できた。
「結婚式に付下げで出席するので、それに相応しい名古屋帯」
と言われれば、豪華な織の名古屋帯を織っている織屋から。
「紬に締める名古屋帯を」
と言われれば、お洒落物専門の織屋から、と言う風に商品を取り寄せる事ができた。
しかし、機を閉じる織屋が次々と現れる中、お客様の要望に対応しようにも難しくなってきた。
お客様の要望には、TPOによる要望もあるけれども質的なものもある。言わば、高級品と汎用品である。吟味した手織りの帯を欲するお客様もいれば通常の帯を欲するお客様もいる。
織屋の生産本数も減少している中で、同じ織屋が手織りの高級品も機械織の汎用品も生産するのは難しくなっている。お客様が欲する価格帯の帯が無くなる恐れがある、と言うよりももう既になくなりつつある。
また、生産本数が少ないために新しい柄の帯を織るのが難しくなってきている。新しい柄の帯を織るには、相当数織らなければならない。色糸を変え、同じ柄でも違った雰囲気で大量に織れれば良いが、それ程の需要がなければそれもできずに新柄を諦め、昔織った柄や現行の柄を織り続ける事になる。
問屋さんが店にやって来ては帯を広げて見せてくれるが、
「あれ、その柄見たことあるな。」
そう言うと、
「ええ、以前の紋紙で色糸を替えて織っているんです。」
と言う言葉が返って来る。
つづく