全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題
Ⅶ-61 手拭(その2)
捺染と注染の違いは柄の出来だけではない。注染は、その名の通り糊で型置きした生地を何枚も重ねて、上から染料を注ぐ。染料は重ねられた生地に浸透し生地を染めるので、生地の表も裏も綺麗に染める事ができる。
一方捺染は表から印刷と同じで染料を擦り付ける為に、裏まで染料が通らずに、裏が表の柄に比べて薄く成ったり、また染料や機械によっては裏が白くなったりする。
注染で染められた手拭は、表裏が鏡面対象には成るが同じ柄が染められる。しかし、捺染は裏表ができる。
私の店で扱っている捺染の豆絞りは、時に裏が白い物をメーカーが送ってくることがある。同じ機械で染めても染料の具合やその他の具合で裏まで染料が通らない事があるらしい。メーカーに注文する時には「裏まで染まっている物」と言って送ってもらっている。
捺染と注染には染色の程度に明確な差ができるけれども、コストの差もまた歴然である。
注染は、職人が型を彫る手間、一枚一枚型を置く手間、そして染料を注ぐ染織の手間がかかる。そして加えて全て手仕事で行うので、染料のにじみなど染難が出る場合がある。100枚染めて全て正反に仕上がると言う事はまずない。ある程度の歩留まりを考慮してコストを計算しなければならない。
注染は、オリジナルの手拭を創りやすい。私の店でもお客様の注文で何度もオリジナルの手拭を染めて来た。
お客様に柄を出してもらい(私の方から提案する場合もある)、その型を作らせる。そしてその方で手拭を染める。手拭いは、通常一反から10枚染められる (十本取りという) 。手拭に染められる綿反は、1疋(2反)が単位で、手拭に染める場合、最低ロットは2疋である。即ち一回の注文で40枚以上であればオリジナルの手拭を染める事ができる。
実際にお客様からオリジナル手拭の注文を貰う場合は、通常100枚とか200枚である。100枚であれば5疋(10反)、200枚であれば10疋(20反)染める事になる。
しかし、実際には200枚の注文を受けて10疋染めた場合、染難が5枚出れば正品は195枚になる。そうかと言って、11疋染めれば、染上りは220本。染難が10枚でても210本仕上がって来る。
この辺りの事情は、発注するお客様に十分に理解してもらっている。「200本の注文。1本多くても少なくていけない。」と言う事になると無駄が出る。220本染めて正品が210本の場合、10本の無駄が出る。オリジナルの手拭だけに残った10本は売る訳に行かない。単価の高い注染手拭だけに、これでは商売にならない。
200本の注文で正品が195本の場合、染屋では染難の5本は請求せずに送って来るので、お客様には195本分の請求で5本の難物はサービスとしてお渡ししている。
捺染の手拭は300円で売っているが、オリジナル手拭の注文は受け難い。捺染は機械で染めるので大量生産である。もしも、オリジナルの捺染手拭を一本300円で作ってくれと頼まれれば、おそらく数千本あるいは数万本の注文でなければ受けられない。100本200本の注文ではとても採算がとれない。印刷機械で10枚のポスターを印刷するよりも、コピー機で印刷した方が安いのと同じである。
つづく